経営者の意識改革が要。継続的な1on1で組織の成長を促す

クライアント プロフィール

ファーマケア株式会社 代表・染谷政光さん

千葉県出身。石川県の能美市と小松市で、調剤薬局「ふたば薬局」を経営するほか、在宅訪問や地域包括ケアに携わる。
公式ウェブサイト http://www.futaba-y.net/

成長する組織を作るため、「まず自分から変わろう」と決意

敦子
今回は、石川県で調剤薬局の経営や地域包括ケアに関わる、ファーマケア株式会社の代表・染谷政光さんにご登場いただきます。
染谷さん
よろしくお願いします。ファーマケアは、1998年に私の父が創業し、5年前に事業を継ぎました。正確な調剤と丁寧な服薬説明、きめ細やかな対応を大切に、地域で信頼され安心感のある薬局作りを心がけている企業です。
20代後半の頃、生まれ育った千葉県を離れ、父親のビジネスを手伝い始めたという染谷さん。2代目として、組織作りに尽力しています。
敦子
染谷さんとは、4年近いお付き合いになりますね。ではさっそく、染谷さんが組織開発コンサルティングを依頼された理由をお聞かせください。
染谷さん
患者さまやお客さまに良いサービスをご提供するためには、まず会社が元気であることが重要です。そのためにも、1人ひとりが自分で考えて成長する会社を作りたいと考えていました。

さらに、地元の商工会の青年部で、新しいチャレンジや目標に向かってみんなで努力して乗り越えていく体験をし、成長する組織作りへの意志がいっそう強くなったんです。
敦子
商工会の青年部には、染谷さんと同じ経営者や後継者の方が多いですから、とても刺激的な体験をされたんですね。
染谷さん
はい。周りに助けていただきながら、視野の広がりや他者とのコミュニケーションの変化を実感し、自信がついていきました。
ところが、会社ではセルフイメージ通りに振る舞えず、どうしたらいいか分からない状態だったんです。そこで、自分自身の内面を鍛えようと考え、鈴木先生(以下、先生)にセッションをお願いしました。
敦子
組織開発というと、「組織全体を改善するルールを作る」「特定の人物のケアをする」などのイメージを持たれやすいのですが、そうではないんです。実は、経営者やマネジメントといった多くの人に影響を与える立場の人たちが、ボトルネックになっている。そのようなケースは珍しくありません。

ですから、染谷さんご自身が自分に課題感を感じ、変わっていこうと行動されたことが、素晴らしいと思います。

“部下からの反発”は、組織を改革するチャンス!

敦子
最初のセッションでは、染谷さんからじっくりと理想の組織像をうかがいました。そこで私は、「染谷さんと社員の皆さんの交流が少ないな」と感じたんです。染谷さんと皆さんの関係性を構築し直す必要があると考え、染谷さんに「社員1人ひとりと面談し、ご自身が考えていることや会社のビジョンを伝えてください」と話しました。
染谷さん
そうでした。先生から「みんなとセッションしてください」と言われ、正直なところ戸惑いましたね。トップダウンの文化でしたので、「困りごとは社長や会社が解決するもの」「みんなと話をすると仕事が増える」と、私自身が思い込んでいたんです。
敦子
無意識に、関わりを避けていたのかもしれませんね。
染谷さん
はい。ですから、「面談はちょっと・・・」と腰が引けるときもありました。でも先生は、「何のために組織を変えていきたいのか」と問いかけてくださるんですよね。一緒に、「1人ひとりが成長する組織」への思いに立ち戻ってくださり、勇気が持てました。
敦子
実際に、皆さんと話をしてみていかがでしたか。
染谷さん
心配するようなことは、まったくありませんでした。前向きな意見ばかりでしたし、私の考えにも「共感します」と返してくれたり。私は、自分の中で勝手にストーリーを決めて、そうなるだろうと思って話をする傾向があったのですが、取り越し苦労でした。
敦子
社員の皆さんと話すことに、バイアスがかかっていたんですね。
染谷さん
もちろん、ときには意見の食い違いも出てくるんです。私は、「こうあるべき」と白黒つけたい、正解か不正解かどうかを決めたい気持ちが強いのですが、「黒がダメということではないですよ」と先生から教えていただきました。とくに「反発はいいことなんですよ」と聞いたときは、すごく驚きましたね。
敦子
経営層と社員の間で、意見の対立が起きることは当たり前です。むしろ「現状と違う方向へ向かっていく」「新しいことが起きる」と、皆さんがイメージできている証拠なんですね。心が動き、準備をし始めているからこそ、反発となって現れるんです。
染谷さん
なるほど。私が「大問題だ」と悩んでいるときも、先生は「組織を改革するチャンスですよ」と背中を押してくれました。今では、社員から予想外の反応があっても、良い機会だと捉えられるようになりましたし、良し悪しを判断するのではなく、「こんな考えを持ってるんだな」と受け止めることができています。

他者への影響力が強い人の変化は、組織全体を変える

敦子
それから染谷さんは、社員の皆さんと定期的な面談を続けています。社内には、どのような変化が起きていますか。
染谷さん
以前はあまり関係性が良いとは言えなかったリーダーたちと、お互いを知ることができています。面談を始めるまでは、「人が足りない」などのような不満を聞くことが多く、利己的な考えを持ってるんだろうと感じていたんです。でも話をしてみたら、入社したときからやりたいと思っていた仕事が、できていない状態だったと分かりました。
敦子
その方も、ご自分のスキルを生かし切れていないフラストレーションがあったんですね。
染谷さん
そこで、コミュニケーションが得意なリーダーに新しく役職を作り、任せたんです。これだけがきっかけではないと思いますが、すごく変わって、会社全体を考えた行動が増えています。
今では、彼自身が部下と丁寧にコミュニケーションを取るようになり、そこからチーム全体も前向きになっていると感じます。
染谷さんの変化が、キーパーソンの変化を促し、組織全体が変わっていきました。(本文の内容と写真は関係ありません)
敦子
組織開発のコンサルティングでは、組織の現状と理想のギャップを埋める適切な人材配置、中核人材の選定、その人材の役割の再定義をお願いしています。染谷さんは「この人に任せたい」「期待している」という強い思いをお持ちで、かなりの回数の面談をされましたよね。
染谷さん
はい。面談をすることで「彼も会社に貢献したいと考えていたのだ」と、誤解が解けました。また他のリーダーも、自分で考えて行動するようになっています。自発的に社員教育に取り組んだり、私の仕事を代わりに引き受けてくれています。
敦子
染谷さんご自身もタスクが多く、なかなか時間が取れない課題がありました。それも、解消されているんですね。
染谷さん
仕事をすべて書き出し、本当に自分でなければだめな仕事なのかどうか、誰かに任せられないか?を考えていくと、「自分でなくてもいい仕事」に気づきました。それを任せる決断を乗り越えたら、自然とまわりの人たちが仕事を引き受けてくれることが増え、時間が生まれています。

「いつまでにやる?」の期限を決めると、心も体も動き出す

敦子
新しい薬局の開局や介護施設の調剤も担当するなど、事業も拡大され、染谷さんの変化が会社を前進させていると感じます。あらためて、組織開発コンサルティングとしてコーチングを受けられた感想を教えてください。
染谷さん
いつも感じるのは、「いつまでに何をしますか」と先生が言われることです。希望やビジョンはすぐに話せるのですが、「それを実行する期限を決めてください」と言われると、今も困るときがあります。でも、期限を決めないと行動に移しづらいですよね。
敦子
そうですね。行動しなければ変わりません。期限を決めることは、夢や理想にリアリティをまとわせ、行動を意識するための方法なんです。「いつまでに」と臨場感を高めていくと、意識が強く残るので、「やろう」と行動が起こりやすくなります。あわせて、目指すゴールも足元の内容だけでなく、ずっと先のことまでたくさん話していただくことを、意識していました。
染谷さん
コーチングって、地図のようですね。どこへ向かっていいか迷っているとき、ゴール地点を決め、そこへたどり着く道筋を考える一連のプロセスのサポートをしてくれる存在だと思います。
敦子
用意されているのではなく、自分で作っていく地図ですね。
染谷さん
はい。やってきたことが積み重なっているのか、前に進んでいるのか分からなくなったときも振り返れますし、ゴールを見失ってるときは「ここですよ」と示してくれる地図です。

忙しさにかまけてしまうと、ルーティーンを回しているだけで、月日がどんどん経ってしまいます。だから、定期的なコーチングで、自分は何を理想とし、何をすべきか?の確認は大事だと思います。

能美市から全国へ、薬剤師の提供価値を広げたい

敦子
それでは、これからの展望をお聞かせください。
染谷さん
大きく3つあります。1つ目は、チーム経営の実現です。誰か1人が引っ張っていくのではなく、働く1人ひとりが自分の得意な分野で活躍し、みんなで考え成長していく企業を作りたいです。

2つ目は、在宅医療を広めることです。現在、医師の往診に付き添って、処方の提案や薬の飲み方をお話しするなど、少しずつ関わりを始めました。在宅医療は、ファーマケアだけでなく、能美市全体で取り組みたいですね。そして3つ目は、薬剤師が貢献できることや活動をもっと発信し、薬剤師の価値を向上することです。
薬剤師の可能性を信じ、薬剤師が活躍できる環境作りに取り組みます。(写真は2020年以前のものです)
敦子
染谷さんは、地域医療を通して異業種の方たちと連携し、地域を盛り上げる役割を担われるのだろうと思います。そこから、全国の薬剤師の方々や関係者ともつながりを深め、業界に大きな影響力を持つキーパーソンとして活動されると期待しています。
染谷さん
スケールが大きなお話です(笑)。まずは、能美市を盛り上げたいとは考えています。今、顔見知りの経営者や地元で活躍している方と、「どんなふうになりたいのか?」「何をやりたいのか?」などの話をする機会を、意識的に作っています。1人ひとりの経営者が成長していけば、経済はもっと盛り上がる。すると、住んでいる人も嬉しいですよね。

コーチングを通して、「自分はこんな考え方を持っている人間なのだ」と自分自身の核に気づきました。やはり、「みんなが成長できる会社にしたい」はずっと思っていること。忙しい中でも、いったん立ち止まって考える機会を大事にしたいです。

インタビューを終えて

組織開発コンサルティングでは、会社の意思決定を担う経営層や経営幹部に対し、エグゼクティブコーチングを行う場合があります。エグゼクティブポジションの思考と行動変容は、組織の成長を牽引します。染谷さんの変化は、その影響力を強く実感しました。

面談を通し、社員の方々とお互いの理解を深めている染谷さん。面談では、はじめに「なぜこの話をするのか」「こうなってほしい」などの理由や目的を伝え、一方的に話すことがないよう心がけているそうです。創業者のお父様の代から染谷さんへ、スムーズに組織の信頼が移行し、理想的な事業継承が実現された点も参考になります。

やはり社員にとって、経営層と1対1の状況は緊張するもの。「感じていることはありますか?」「あなたはどうしたいですか?」と聞くと、一気に距離が近づき、信頼関係が作れます。

執筆:マチコマキ