サクセッションプランとは?意味・導入5ステップを中堅・中小企業向けに解説

サクセッションプランとは、社長や役員、事業部長などの重要ポスト(キーポジション)について、退任の前から後継者候補を複数選び、計画的に育成しておく仕組みです。
日本語では「後継者計画」「後継者育成計画」と呼ばれます。

「いつかは後継者を決めないといけない」と思いながら、日々の業務で後回しになっていないでしょうか。東京商工リサーチの調査では、中小企業の後継者不在率は62.60%(2025年)で、調査開始以来毎年上昇しています。後継者の育成には数年かかるため、「決めてから育てる」では間に合わないのが実情です。

この記事は、サクセッションプランという言葉を初めて聞く中堅・中小企業の人事担当者と経営者に向けて書いています。意味と違い、必要な理由、導入5ステップ、有事の備え、候補がいない場合の選択肢と公的支援までを一つにまとめました。最後のセルフ診断で、明日から何をすべきかを整理していきましょう。

※本記事は2026年10月時点の制度・統計に基づきます。

目次

1. サクセッションプランとは?定義と目的

サクセッションプラン(Succession Plan)の目的は、重要ポストが空いても経営が止まらない状態を、前もって作っておくことです。英語では「succession planning」、継続的な運用を指して「サクセッションマネジメント」とも呼ばれます。

経済産業省は「指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針(CGSガイドライン別冊)」(2022年7月)で、後継者計画を次のように位置づけています。

企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を確保することを目的として、そこで中心的な役割を果たす社長・CEOの交代が優れた後継者に対して最適なタイミングでなされることを確保するための取組

出典:経済産業省「CGSガイドライン別冊」(2022年7月)

サクセッションプランの中身は、次の2つに分けると理解しやすくなります。

要素内容
選定重要ポストごとに求める人材要件を定め、客観的な基準で複数の候補を選ぶ
育成候補ごとに要件との差(ギャップ)を確認し、実務経験・研修・配置転換で計画的に伸ばす

大切なのは、「次の社長を一人だけ内定させておく」ことではない点です。候補を複数名集めた集団を「タレントプール(人材プール)」と呼びます。育てながら評価し、少しずつ絞り込んでいく「動く計画」であることが実務上の条件です。

また、社長の病気や事故など突然の事態に備える「エマージェンシー・プラン(有事対応プラン)」を、通常の計画とは別に持っておくことも重要です。具体的な作り方は6章で解説します。

2. 人材育成・事業承継・タレントマネジメントとは何が違う?

サクセッションプランは、「経営に欠かせないポスト」から逆算して人を先回りで育てる取り組みです。似た言葉とは、目的・対象・時間軸が違います。

概念目的対象特徴
サクセッションプラン重要ポストの後継者を確保し、経営を継続させる経営者・幹部候補などの少数経営戦略と直結。ポストを起点に複数候補を育成・評価する
人材育成社員全体の能力を高める幅広い階層特定ポストの補充が直接の目的ではない
後任登用空いたポストをすぐに埋めるそのポストに近い人場当たり的に決まりやすい。候補がいなければ外部採用になる
事業承継会社の経営権と自社株式・資産を引き継ぐ経営者の地位と自社株式株式・相続・税務まで含む広い概念。サクセッションプランはその中の「人」の部分
タレントマネジメント社員の情報を一元管理し、配置や育成に活かす全社員データの基盤。サクセッションプランを運用する道具の一つ

非上場の中小企業では、事業承継(株式・税務)とサクセッションプラン(後継者の選定・育成)を同時に進めると効率的です。株式を誰に渡すかと、誰を経営者として育てるかは、切り離せないからです。

3. なぜ今、中堅・中小企業に必要なのか?

数字で見る後継者問題

最大の理由は、後継者がいない企業が6割を超え、社長の高齢化も過去最高を更新しているからです。上場企業ではガバナンスと情報開示の面からも求められています。

理由1. 中小企業の後継者不在率は62.60%

東京商工リサーチの「2025年後継者不在率調査」(約16.9万社)によると、中小企業の後継者不在率は62.60%です。前年から0.45ポイント上がり、2019年の調査開始以来、毎年上昇しています。代表者が60代の企業でも、約半数に後継者がいません。

調査会社によって数字は異なり、帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査(2025年)」(約27万社)では50.1%です。どちらの調査でも、約半数以上の企業に後継者がいないという点は共通しています。

理由2. 社長の平均年齢は63.81歳で過去最高

東京商工リサーチの「2025年社長の年齢動向調査」では、社長の平均年齢は63.81歳でした。2009年の59.57歳から、16年間で約4歳上がっています。

さらに、2025年に休廃業・解散した企業は6万7,210件で、3年連続で過去最多を更新しました。休廃業した企業の代表者は60代以上が90.6%と初めて9割を超え、80代以上も34.0%に達しています(出典:東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散企業』動向調査」、2026年1月9日)。後継者が決まらないまま年齢を重ね、廃業に至るケースが増えています。

理由3. 多くの企業が「未定」のまま止まっている

見逃せないのは、後継者不在企業のうち46.60%が方針を「未定・検討中」と答え、「社内で人材を育成する」と明言した企業は2.78%にとどまる点です(東京商工リサーチ同調査)。

多くの企業が「いつか決める」で止まっています。育成には数年かかるため、決めてから育て始めては間に合いません。決める前から、育成を含めて始める。それがサクセッションプランです。

理由4. 上場企業ではガバナンスと開示の両面で求められる

上場企業・上場準備企業では、次の2つの制度変更も背景にあります。

  • コーポレートガバナンス・コードの改訂(2026年7月21日)
    金融庁と東京証券取引所が5年ぶりに改訂しました。補充原則を廃止して「解釈指針」を新設。規範を「形式から実質へ」と整理し直した内容です。

    上場会社は遅くとも2027年7月末までに、改訂版に対応したガバナンス報告書を提出する必要があります。この改訂で、CEOの後継者計画(サクセッションプラン)への取締役会の主体的な関与と監督は、従来の補充原則4-1③から「原則4-3」へ格上げされました。後継者候補の育成と、資質を備えたCEOの選任が、十分な時間と資源をかけて計画的に行われるよう監督することが求められています。
  • 人的資本の情報開示
    有価証券報告書を提出する約4,000社では、2023年3月期から人的資本の開示が義務化されました。さらに2026年2月20日の内閣府令改正により、2026年3月期の有価証券報告書から、全上場企業に「企業戦略と関連付けた人材戦略」「従業員給与等の決定方針」「平均年間給与の対前年増減率」の開示が新たに求められています。

    経営戦略と連動した人材戦略を説明するには、幹部・後継者候補の育成計画が欠かせません。

上場企業の先行調査(26社)では、過去1年に取締役会などで後継者計画を議論した企業が73%でした(出典:カディラ調査。サンプル数が限られる点に留意)。非上場企業にとっても、上場企業の取り組みは「何をどこまでやるか」の参考になります。

4. メリットとデメリットは?

最大のメリットは経営が止まるリスクを減らせることで、デメリットのほとんどは「時間がかかる」「不公平感が出やすい」の2つです。どちらも対策できます。

メリットデメリットと対策
重要ポストが空いても事業が止まらない育成に数年かかる → 短期の成果だけで評価せず、年1回の見直しで進捗を確認する
候補者の意欲と定着率が上がる選ばれなかった人に不公平感が出る → 選ぶ基準を文書にし、本人と対話する(7章)
幹部人事を客観的な基準で決められる社内に「出世レース」の空気が広がる → 候補者リストは機密として扱うルールを決める
金融機関や取引先に、経営の継続性を説明しやすくなる作って終わりになりやすい → 9章の失敗パターンを事前に知っておく

時間の問題は、早く始めて少しずつ積み重ねることでしか解決できません。不公平感は、基準を文書にして説明することで小さくできます。どちらの対策も、次章のステップに組み込んでいます。

5. 導入の5ステップと「今日やること」

サクセッションプラン5ステップ

サクセッションプランは「ポスト → 要件 → 候補 → 育成 → 見直し」の5ステップで進めます。経済産業省のCGSガイドライン別冊が示す手順を、中堅・中小企業向けに5つに整理しました。各ステップの最後に、今日から始められる行動を1つずつ付けています。

ステップ1. 経営戦略から重要ポストを洗い出す

中期経営計画の実現に欠かせないポスト(社長、役員、事業部長、工場長、主要顧客の担当者など)を挙げます。「今いる人」ではなく「ポスト」から考えるのがポイントです。人から考えると、「今の人で問題ない」という結論に落ち着きがちです。

今日やること:自社の中期計画の要点を1枚に書き、「この人が抜けたら計画が回らない」ポストを3〜5個挙げる。

ステップ2. ポストごとの人材要件を決める

各ポストに必要な知識・経験・資質・人脈を書き出します。現職者の説明にならないよう、「そのポストに求められる役割」から書くのがコツです。既存の等級制度やコンピテンシー(行動特性)の定義があれば流用できます。

今日やること:最も急ぐポスト1つについて、要件を箇条書きで5つ書く。完璧でなくて構いません。

ステップ3. 候補を複数の経路で選ぶ

要件に照らして候補を挙げます。社長の指名だけでなく、管理職の推薦、本人の希望(自己申告)、評価データやアセスメント(適性診断)を組み合わせると見落としが減ります。上場企業の調査でも、選抜方法は「経営陣による指名」が58%、「明文化された基準による選抜」は27%でした(出典:カディラ調査)。基準を文書にすることが、多くの企業のつまずきどころです。候補はポストごとに2〜3名を目安にします。

今日やること:ステップ1のポストごとに、思いつく候補の名前を制限なく書き出す。絞り込みは次回の打ち合わせで行う。

ステップ4. 育成計画を作り、実行する

候補ごとに要件とのギャップを確認し、育成方法を組み合わせます。リーダー育成では「70:20:10の法則」が知られています。成長の70%は仕事の経験、20%は上司や先輩との関わり、10%は研修から得られるという考え方です(米国のロミンガー社の研究に由来)。研修だけでは経営者は育ちません。

核になるのは、新規事業の立ち上げ、部署をまたぐプロジェクト、子会社や不採算部門の立て直しといった「挑戦的な仕事(タフ・アサインメント)」の設計です。中小企業なら、銀行との交渉に同席させる、予算と損益の責任を一部任せる、といった形でも実行できます。

今日やること:最有力候補1名について、「あと1年で何ができれば要件を満たすか」を1枚に書く。

ステップ5. 年1回見直す

候補の進捗を評価し、絞り込み・追加・入れ替えをします。経営環境が変われば、求める後継者像も変わるので要件も見直します。計画は作って終わりではありません。年1回の見直しを続けることで、初めて機能するサクセッションプランになります。

今日やること:次回の経営会議の議題に「後継者計画の進捗」を1項目加えるよう依頼する。

年間スケジュールの例

時期やること
1〜3カ月目ステップ1〜3(ポスト・要件・候補の決定)
4カ月目〜ステップ4(育成計画の実行、半年ごとに本人と面談)
12カ月目ステップ5(経営会議で年次レビュー、翌年の計画に反映)

従業員数十名規模なら、最小構成でよい

上記をすべて実施する必要はありません。「ポスト1〜2個」「要件5項目」「候補2名」「挑戦的な仕事1つ」「年1回30分のレビュー」という最小構成でも、育てる人が決まり、育成が動き出すという本質的な効果は得られます。仕組みの細かさより、始めることと続けることが大切です。

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6. 社長が突然いなくなったら?エマージェンシー・プランの作り方

エマージェンシープラン

エマージェンシー・プランとは、社長や重要人物が病気・事故などで突然仕事を続けられなくなったときに、誰が何を引き継ぐかを決めておく計画です。通常のサクセッションプランが数年がかりで育てる計画なのに対し、こちらは「明日起きても困らない」ための備えです。

中小企業では社長に権限と情報が集中しやすく、準備がないと支払いや契約が止まる恐れがあります。最低限、次の5点を書面にしておきましょう。

項目決めておくこと
代行者社長が不在のとき、意思決定を代行する人(暫定の代表者)と、その次の順位
権限の範囲代行者が決めてよいこと(支払い承認、契約の締結など)と、決めてはいけないこと
銀行・印鑑・口座取引銀行、実印・銀行印の保管場所、ネットバンキングの管理者
主要な取引先連絡すべき取引先・金融機関の一覧と、伝える内容
重要情報の所在契約書、借入れの条件、パスワードの管理方法、顧問(税理士・弁護士)の連絡先

このプランは1〜2時間の打ち合わせで作れます。年1回の見直し(ステップ5)の際に、代行者と連絡先を更新してください。代表者の交代や株式の扱いは法務・税務に関わるため、細部は顧問の税理士や弁護士に確認しておくと安心です。

7. 候補者本人にはいつ、どう伝える?

基本は、「候補に選んだこと」は本人に伝え、「誰が他の候補か」と「最終的に誰に決まりそうか」は伝えない、という考え方です。本人が自分の役割を理解していないと、挑戦的な仕事を任されても意図が伝わらず、育成効果が下がるからです。

伝え方の段階は、次のように分けると混乱が起きにくくなります。

  1. 意思の確認:経営者になる意欲があるか、家庭の事情や将来の希望はどうかを、まず個別に聞く。意欲のない人を候補に残しても育成は進みません。
  2. 役割期待の共有:「将来、このポストを担ってほしい」と伝え、育成計画(ステップ4)の目的を説明する。「必ずその地位に就く」という約束はしない。
  3. 定期的な面談:半年に1回程度、成長の状況と次の課題を本人と話し合う。
  4. 決定の伝達:最終決定は、選ばれた人と選ばれなかった人の両方に、経営トップが直接伝える。選ばれなかった人にも、今後期待する役割を具体的に示す。

候補者の名簿は、社内で広く公開しないのが一般的です。一方で、選ぶ基準や育成の仕組みそのものは公開すると、「えこひいき」という疑いを減らせます。

8. 子どもを後継者にする場合・候補がいない場合はどうする?

子どもや親族を後継者にする場合も、サクセッションプランの考え方はそのまま使えます。社内に候補がいない場合は、4つの選択肢から、育成にかかる年数と社長が続けられる年数を比べて選びます。

親族を後継者にする場合も「育成計画」は必要

東京商工リサーチの調査では、後継者がいる企業の承継先は、同族63.65%、外部からの招へい19.67%、内部昇進16.23%でした。現在も親族内承継が主流です。

ただし、「子どもだから継げる」わけではありません。親族の後継者にも、ステップ2の人材要件とステップ4の育成計画を同じように当てはめましょう。他社での勤務経験、社内の複数部署の経験、銀行や主要取引先との関係づくりを計画的に積ませることで、社員や取引先からの信頼も得やすくなります。古参の幹部を後継者の支え役として明確に位置づけることも大切です。

社内に候補がいない場合の4つの選択肢

選択肢内容向いているケース
① 一つ下の層から育てる社長候補の前に、管理職候補の育成を先に始める。数年後に後継者候補になる若手・中堅の層がある程度いる
② 外部から採用・登用する後継者を社外から迎える。育成期間は短くなるが、社風になじみ信頼を得るまで時間がかかる事業転換期、社内の人材層が薄い
③ 第三者承継(M&A)事業を他社に引き継ぐ。国も支援を広げている親族・社内に後継者が見込めない
④ 現体制を続けながら段階的に任せる当面は現社長が続け、権限を少しずつ渡しながら次の候補を探す他の選択肢の準備に時間が必要

判断の基本は、「育成に必要な年数」と「社長があと何年続けられるか」を比べることです。東京商工リサーチは、円滑な事業承継には数年が必要だと指摘しています。育成に5年、選択肢の切り替えに2年かかるなら、少なくとも7年前には動き始める必要があります。

無料で使える公的な相談窓口と支援制度

中小企業の後継者問題には、国の支援制度があります。一人で抱え込まず、早めに相談しましょう。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター:国が各都道府県に設置している無料の相談窓口です。親族内承継の計画づくりから、第三者承継(M&A)の相手探しまで相談できます。
  • 事業承継税制:後継者が自社株式を引き継ぐ際の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度です。特例措置を使うには、事前に「特例承継計画」を提出する必要があり、その期限は2027年9月30日まで延長されました(令和8年度税制改正)。一方、実際に株式を贈与・相続する適用期限は2027年12月31日のままで延長されていません。対象になりそうな企業は、早めに顧問税理士に相談してください。
  • 事業承継関連の補助金:中小企業庁の「事業承継・M&A補助金」では、5年以内に親族内承継・従業員承継を予定する企業の設備投資を支援する「事業承継促進枠」や、M&Aの専門家費用を支援する「専門家活用枠」などがあります。公募は年に複数回行われ、要件も変わるため、申請前に中小企業庁の最新の公募要領を確認してください。

9. よくある失敗4パターンと対策

サクセッションプランがうまくいかない原因の多くは、「一度きりの人事イベント」で終わらせてしまうことです。典型的な4つのパターンと対策をまとめます。

失敗パターン起きること対策
① 経営トップが人事部に任せきり議論が進まず、計画が宙に浮く経営会議・取締役会の定例議題にし、決裁権がある人が議長を務める
② 要件が「現職者の説明」になる今の延長の人しか選べず、将来必要な人材を逃す現職者から離れ、ビジョンの実現をするための「そのポストの役割」から要件を書く
③ 黙って選ぶ選ばれなかった人の不満や退職、社内の疑心暗鬼基準を文書にし、候補者本人とは希望も含めて対話する(7章)
④ 就任後のフォローがない新任者が孤立し、早期の退任や期待外れにつながる就任後6〜12カ月の支援(外部アドバイザー、前任者の関わり方のルール)を計画に含める

形骸化のサインは、「候補者リストが1年以上更新されていない」「経営会議で一度も議論されていない」「要件が現職者の説明になっている」の3つです。一つでも当てはまれば、年1回の見直し(ステップ5)から立て直しましょう。

10. 企業事例から学ぶ成功の本質

先進企業に共通するのは、「候補を複数で育てる」「経営に近い実務を経験させる」「候補者自身に語らせる」の3点です。いずれも規模を問わず応用できます。

【StartingPointの支援事例】中小企業・医療法人

以下は、私たちStartingPointが実際に支援した事例です(企業名は非公開)。

事例1. 複数拠点を展開する地方企業(従業員約50名)── 創業者から後継者。そして、次のリーダー育成の承継を10年にわたり伴走

項目内容
状況創業オーナーから後継者へ経営を引き継ぐタイミングで支援を開始
取り組み① 後継者のビジョンを言葉にする
② 目指す組織の状態を描き、業務を再整理する
③ 後継者と従業員の関係づくりを支援し、後継者本人に個別に伴走する
その後新体制が定着した後は、次のリーダー層の育成へと支援の軸を移し、関わりは10年に及ぶ

この事例のポイント:承継はゴールではなく、スタートです。後継者が自分の言葉でビジョンを語れることが、従業員との信頼関係の土台になります。そして新体制が定着したら、次の後継者候補の育成が始まります。5章のステップ5「年1回の見直し」を続けることで、サクセッションプランは一度きりで終わらず、世代をまたいで回り続けます。

事例2. 病院(従業員約200名)── 代表理事の急逝後、新体制の定着を支援

項目内容
状況代表理事が急逝し、予期しない形で経営体制の切り替えが必要になった
取り組み新しい組織体制が現場に定着するまでの支援 を行いました。
①新任理事のビジョンの言語化
②役割・体制の整理
③従業員への共有・チームビルディング
④新任リーダーたちへの個別伴走

この事例のポイント:経営者の突然の不在は、規模や業種を問わずどの組織にも起こり得ます。医療機関のように現場を止められない組織では、なおさら影響が大きくなります。6章のエマージェンシー・プランを平時に整えておくことが、こうした場面での混乱を小さくします。

【StartingPointの支援事例】中堅・大企業

事例3.全国拠点をつなぐ次世代リーダー育成 ― 集合研修と個別伴走による1年半のサクセッションプラン

項目内容
状況全国に120拠点を展開するA社では、拠点長層の高齢化と退職の増加により、地方拠点を中心に後任候補が不足。拠点運営が拠点長個人の力量に依存し、一人の異動や退職が業績や顧客対応の低下に直結するリスクを抱えていた。
取り組み① 集合研修
・経営層が経営方針と求めるリーダー像を直接共有し、判断基準を統一
・他地域の候補者との議論で、自拠点の常識を見直す視点を獲得
・成功事例を共有し合う拠点横断のネットワークを形成
② 個別伴走
・候補者ごとの育成計画に基づく定期面談
・拠点の実課題に取り組むアクションラーニング
・現拠点長と連携した育成環境の整備

この事例のポイント:参加者の約8割が、次の段階のキーポジションへ昇進。研修期間中に昇進するケースも見られ、育成と登用が並行して進んだ。全社としての一貫性と拠点ごとの実情への対応を両立し、次世代リーダーを計画的に輩出する体制を整えることができた。

【上場企業の事例】コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー受賞企業

以下の3社は、日本取締役協会の「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」で、社長・CEOの選任と後継者計画の先進的な取り組みを評価する経済産業大臣賞を受賞しました(マニー:2023、横河電機:2024、フジクラ:2025。出典:経済産業省の発表を参照)。

企業取り組みの特徴中小企業への応用ポイント
フジクラ事業構造改革を牽引するリーダー像を定義。指名諮問委員会が主導し、多角的な外部アセスメントや360度評価を導入して、階層にとらわれず次世代リーダーを早期に発掘・抜擢しました。候補を1人に絞らない。損益や資金繰りなど「経営の数字に触れる仕事」を任せる
横河電機社外取締役主導でCEO要件を明文化。サクセッションプランに基づき、将来の経営課題に応じたストレッチな実務課題の付与や、客観的アセスメントを組み合わせた計画的育成を実施しました後継者を評価する仕組みと、社長自身を評価する仕組みをセットにする。評価者を事前に決めておく
マニー指名委員会が定めた明確な要件に沿い、候補者自らが「自己研鑽計画」を策定。取締役会での定期プレゼンや社外取締役との個別面談を重ね、長期的な育成と客観的な適性評価を並行して進めました。候補者自身に計画を書かせ、役員会で経営ビジョンを語らせる。役員会があれば規模に関係なく実行できる

社に共通するのは、候補者を「評価される側」にとどめず、自ら計画し語る側に立たせている点です。

11. 導入セルフ診断チェックリスト10問

自社の準備状況を10問で確認しましょう。できている=2点、一部できている=1点、できていない=0点で採点します(満点20点)。

サクセッションプランセルフチェックリスト
サクセッションプランセルフチェックシート

シートのダウンロードはこちら

判定の目安

  • 12点以上:計画が動き始めています。次は就任後のフォロー(9章④)と、上場・上場準備企業なら開示の準備を進めましょう。
  • 6〜11点:骨組みはできています。今期中に0点の質問だけを補強してください。
  • 5点以下:今日から始めましょう。まずは5章ステップ1の「今日やること」と、6章のエマージェンシー・プランからがおすすめです。

※初期確認のための目安です。社内での利用・改変は自由ですが、社外へ再配布する際は出典を明記してください。

12. よくある質問(FAQ)

Q1. サクセッションプランとは何ですか?

A. 社長や役員などの重要ポストについて、退任の前から後継者候補を複数選び、計画的に育成しておく仕組みです。日本語では「後継者計画」「後継者育成計画」と呼ばれます。

Q2. 中小企業にもサクセッションプランは必要ですか?

A. 必要です。中小企業の後継者不在率は62.60%(2025年、東京商工リサーチ)で、育成には数年かかります。小規模なら「ポスト1つ・候補2名・年1回のレビュー」という最小構成から始められます。

Q3. 対象は社長だけですか?

A. 社長だけではありません。役員、事業部長、工場長、主要顧客の担当者など、「その人が抜けると事業が回らないポスト」がすべて対象です。中小企業では社長の次に、番頭役の幹部や技術の要となる人から始めるケースもあります。

Q4. 導入にはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 計画の骨組みは1〜3カ月で作れます。後継者の育成そのものは数年単位の取り組みなので、早く始めるほど選択肢が広がります。

Q5. 費用はどのくらいかかりますか?

A. 計画づくりと要件の整理は、社内の人員だけで始められます。外部の研修・アセスメント・コンサルティングを使う場合は、内容と範囲で費用が大きく変わります。まず「どこまで自社でやり、どこから外部の力を借りるか」を切り分けるのが現実的です。

Q6. 候補者に「あなたは後継者候補だ」と伝えるべきですか?

A. 候補に選んだこと自体は、本人の意思を確認したうえで伝えるのが基本です。ただし「必ずその地位に就く」という約束や、他の候補者の名前は伝えません(7章)。

Q7. 子どもを後継者にする予定でも、サクセッションプランは必要ですか?

A. 必要です。親族の後継者にも人材要件と育成計画を当てはめ、他社経験や社内の複数部署の経験を計画的に積ませることで、社員や取引先の信頼を得やすくなります(8章)。

Q8. 社内に後継者候補が見つからない場合は?

A. 一つ下の層から育てる、外部から採用する、第三者承継(M&A)、現体制を続けながら段階的に任せる、の4つの選択肢があります。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターに無料で相談できます(8章)。

まとめ

  • サクセッションプランとは、重要ポストの後継者候補を退任の前から複数選び、計画的に育てておく仕組みです。
  • 中小企業の後継者不在率は62.60%、社長の平均年齢は過去最高の63.81歳です。育成には数年かかるため、「決めてから育てる」では間に合いません。
  • 進め方は「ポスト → 要件 → 候補 → 育成 → 年1回の見直し」の5ステップです。小規模なら最小構成から始め、まずはエマージェンシー・プランを作っておきましょう。

まずはセルフ診断で、自社の準備状況を確認してみてください。ポストの洗い出しから人材要件づくり、候補者育成の伴走まで、外部の専門家が第三者の立場で支援することもできます。
最終更新日:2026年10月9日

参考資料

カディラ「後継者計画に関する上場企業調査」

経済産業省「指名委員会・報酬委員会及び後継者計画の活用に関する指針(CGSガイドライン別冊)」(2022年7月)

東京商工リサーチ「2025年『後継者不在率』調査」(2025年11月10日)

東京商工リサーチ「2025年『社長の年齢』動向調査」(2026年3月5日)

東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散企業』動向調査」(2026年1月9日)

帝国データーバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月)

金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)」(2026年7月21日)

内閣官房「人的資本可視化指針の改訂に関する資料」(内閣府令改正の記載を含む)

経済産業省「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー経済産業大臣賞」

中小企業庁「補助金公募情報(事業承継・M&A補助金)」

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