こんにちは。組織開発コンサルタント 行動促進研究家の鈴木敦子です。
先日「ポジティブな言葉を使ったり、感謝を表現するよう気をつけている。けれど、なぜか気持ちが沈んだりうまくいかない」というご相談をいただきました。
「日常のことに“当たり前”なことはなく、“感謝”する気持ちが大切ですよ」とは、よく聞くアドバイスですよね。感謝を表現することで得られるメリットは、さまざまな研究からも示されています。でも、感謝って逆にネガティブ思考を強化してしまうこともあるんです。こわいですね。
今回は「感謝」と「幸福感」の相関関係や、ポジティブ思考が強化される効果的な方法やワークについて、お話したいと思います。
「感謝」の種類
「感謝」にも種類があるって知ってましたか?
「感謝するとポジティブな気分になるよ」とか「感謝することで、幸福感が高まるよ」というアドバイスをよく聞きますよね。
でも「”何”に対して感謝するのか」を間違えてしまうと、かえって自己中心性が増したり、環境や他者依存が強くなってしまうのです。意外ですよね。
感謝も対象別に2種類あるという研究をされたのは、米国・カリフォルニア大学リバーサイド校、アルメンタ博士の研究チームです[Armenta,C.N.,Fritz,M.M,&Lyubomirsky.s(2017)]。感謝を次の2種類に分け、それぞれの定義とそれらがもたらすものを明らかにしています。
それは、Doingの感謝とBeingの感謝です。
自分にとって「良い」と感じるDoingの感謝
Doingの感謝とは、自分にとって良いと感じることが起きたときやポジティブな成果を得たときに感謝することです。周囲からもたらされる事象に対して「良い」と感じられたこと「Doing」に反応するものです。
すべての物事が嬉しいBeingの感謝
Beingの感謝とは、有形、無形にとらわれず、存在しているすべての物事に感謝することです。日々の何気ないことすべてに感謝する。Beingの感謝には、Doingの感謝も含まれます。
たとえば、毎日夜寝る前に「感謝」を書き出しましょうというワークをしていただくと、Doingの感謝を書き出す方が多いです。
研究では、Doingの感謝だけをしていると、自分にとって何か良いものごとが起きないと感謝を感じられなくなったり、自己中心さが増し、自我が強くなったりするという結果がでています。また、周囲が自分の都合どおりに動かないことに苛立ち、気分の浮き沈みが起きやすくなり、長期的には鬱傾向を強くする結果がでています。何か良いことがないと感謝できない思考を強化してしまうのです。
自分ではコントロールできない環境や、他者への依存心も高まりそうですよね。
捉え方のちょっとした違いで、脳の神経システムが反応し定着していく。日々の「何に」意識を向けるかは、本当に大切です。
Beingの感謝は、今あることに充足感が高まります。現状に、満足できると、結果として幸福感が高まります。そして、成長意欲が増大し、前向きな気持ちになり、困難に立ち向かうことへの行動力も身についていくのです。
「感謝」することの効果
「感謝」を表現することによる効果は、さまざまな研究からも示されています。
- 免疫機能が高まる
- ストレスが軽減され鬱になりにくい
- 成長志向や自制心が高まり結果うまくいく
- 前向きになれる
- レジリエンス力(回復力)が高まる
1.免疫機能が高まる
シンガポール・シンガポール国立大学、ハータント博士ら[Hartanto,A.,Lee,S.T.H.,&Yong,J.C.(2019)]は、対象1054人に、インターロイキン6の血中濃度と感謝についての研究を行いました。
インターロイキン6とは
身体が炎症を起こしているときにたくさん出るタンパク質で、炎症反応の指標としても使われます。免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たしています。おもに身体に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除するための役割を担っています。安定した状態の維持にとても重要ですが、長期にわたって過剰に分泌し続けると、さまざまな病態を引き起こすことが知られています。
この研究では、とくに良いことが無くても感謝の気持ちを持っている人は、インターロイキン6が低いことが明らかになりました。
逆に、不平や不満を抱えている人は、インターロイキン6が高く、身体が慢性的な炎症を起こし、寿命が短くなったり、不健康になる確率が高くなるそうです。
常に感謝の気持ちをもっていると身体の炎症が抑えられ、指標となるインターロイキン6の血中濃度が低く抑えられる。高い免疫機能を獲得していえるとも言えますね。
2.ストレスが軽減され、鬱になりにくい
ルーマニア・ティミショアラ西大学のタルビューレ博士ら「Tulbure,B.T.(2015)]は、113人を対象に感謝の度合いと鬱の度合いを調べ、その相関関係をみつける研究を行いました。
相手に何かしてもらった時だけ感謝するのではなく、人生のポジティブな面に気づき、ありがたく思えると、人間だけでなく、自然や動物などにもポジティブな感情が生まれます。さらに、 困難なことに遭遇しても問題解決に早く行き着くことができ、大変な状況にも順応しやすく、鬱になりにくいといった結果も出ています。
3.成長志向や自制心が高まり、結果うまくいく
米国・ノースイースタン大学のディケンズ博士[Dickens,L.,&DeSteno,D.(2016)]の105人を対象にした研究では、感謝と幸福感を評価するタイム・ディスカウント(遅延報酬選択)のテストが行われました。
人の脳には、タイムディスカウント (遅延報酬選択) という特性があります。これは、時間が経つにつれ、その価値を過少に見積もってしまうこと。
テストでは「明日報酬を受け取る場合は1万円ですが、受け取る日を1か月遅らせれば、1万5千円になります。あなたはいつ受け取りますか?」という回答の答えと感謝の相関関係を調べました。
結果、感謝する気持ちが多い人ほど「将来の大きな報酬」を選択する傾向があることがわかりました。
同時に行われた脳の測定によると、忍耐強く待てる人は、成長志向や自制心を表現する際に反応する脳の頭頂葉の部位に大きな反応がみられたということです。
4.前向きになれる
韓国・ヨンセ大学のキョン博士[Breines,J.G.,&Chen,S.(2012)]は、感謝しているときには、脳内の状態がどうなっているのか?の研究を行いました。
感謝しているとき、あるいは感謝が常態化している人の脳内では、機能的な複数の領域が繋がり、活動が活発化していることが明らかになっています。いっぽう、怒っているとき、不満や怒りの感情が常態化しているときには、脳内の繋がりが弱くなり、機能的な領域の活動が分断され、動きが低下するということです。
また、幸福感を多く感じている人は、ネガティブな状況に陥っても前向きに捉えなおし、脳をポジティブに活発化できるという結果もでています。
自分のできることを一生懸命にしようと行動し、前向きに、チャレンジし続けられる人には、うまくいく循環が生まれる理由がわかりますね。
5.レジリエンス力(回復力)が高まる
米国・カリフォルニア大学バークレー校のブレインズ博士は、「自責」や「ダメ出し」が常態化している人と「Beingの感謝」をいつも感じている人の意欲のあらわれ方を研究しました。Beingの感謝が常態化している人は、成長意欲が高く、心が折れにくいということが明らかになりました。
また、英・ウォーリック大学の研究では、幸福な気持ちで作業すると生産性が12%向上し、不幸せな気持ちで作業すると生産性が10%下がることが明らかになっています。幸福と生産性は、関連しているんですね。
感謝と脳内ホルモンの関係
カルフォルニア大学ディヴィス校エモンズ教授ら[Emmons,R.A.,& McCullough、M.E(2003)]は、感謝が幸福にどのように関係するかの研究を行っています。結果は、感謝することで、幸福感が高まるということです。そして、気分やカラダや人間関係にもポジティブな効果がしめされました。
また脳科学的には、感謝することで、セロトニン、ドーパミン、エンドルフィン、オキシトシンなど、脳と体にいい作用を与える脳内物質が分泌されることも明らかになっています。
セロトニンとは
心のバランスを整える作用があるホルモンで、感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わっています。心と体の健康に影響を与えます。感情表現でいうと「体調がいい」「気分がいい」「気持ちがいい」「すがすがしい」「スッキリ」「さわやか」です。
ドーパミンとは
成功や達成感を感じると出てくるホルモンです。脳を興奮させるので、感情表現でいうと「高揚感」を満たします。興奮した「喜び」「楽しさ」「達成した爽快感」です。また、結果を出すためには、労力が必要です。頑張るからこそ得られた瞬間に感じる気分は最高です。
エンドルフィンとは
脳内麻薬とも呼ばれるホルモンです。痛みやストレスなどの精神的負荷を和らげます。鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られます。感情表現でいうと「気分がいい」「気持ちがいい」です。
オキシトシンとは
スキンシップや他者に優しくしたり、思いやると分泌されるホルモンです。温かく幸せな気持ちになり愛着がうまれます。また、ストレスを抑えたり、自律神経を整えたり、血糖値や血圧をコントロールしたり、免疫力アップなどの効果もあります。感情表現でいうと誰かと一緒にいて感じる「楽しい」「うれしい」「安らぐ」「心地よい」です。
ポジティブ思考の脳をきたえる効果的な方法
感謝と脳の仕組みには、深い関係があることがわかりました。では、積極的に感謝を表現することで幸福感を高め、健康なこころとカラダを手に入れられる具体的な心がけやワークをご紹介します。
脳をポジティブに変化させる大切なこと
「感謝」を感じる時の感情と、体感覚を一致させることが大切です。
- 普段、どのような状況に、どんな感情を感じていますか?
- ポジティブな感情を感じるのは、どのようなときですか?
- ポジティブな感情に満たされているとき、カラダにはどんな感覚がありますか?
自分の感情の反応パターンを知り、日常の当たり前にある有形、無形のものすべてをポジティブな感情で表現していきましょう。
脳をきたえる方法
- 過去、ポジティブな感情を感じたときのエピソードを書き出してください。(より具体的に書き出すことが大切です。)
- 1日の中で、ポジティブな感情を感じたエピソードを書き出しましょう。
- 毎日、すでにあるものを書き出し、ポジティブな感情で表現してみましょう。
ポジティブ思考のきたえ方まとめ
- 感謝には「Doingの感謝」と「Beingの感謝」の2種類があります。ポジティブ思考が向上する「Beingの感謝」を意識しましょう。
- 感謝を表現すると、ストレスが減ったり前向きになれるなど、さまざまな良い効果があります。
- 感謝を表現することで脳内に幸福ホルモンが分泌されます。
- ポジティブ思考ができる脳をきたえるには、日々の生活の中で起きるポジティブな感情を認識し、そのときの体感覚のエピソードを一致させるくせをつけましょう。
参考文献・引用
・Armenta.C.N.,Fritz,M.M.,&Lyubomirsky.S.(2017)Functions of positive emotions;Gratitude as amotivator of self-improvement and positive.Emotion Review.9.183-190
・Hartanto.A.,Lee.S.T.H.&Young.J.c.(2019)Dispositional gratitude moderates the association between socioeconomic status and interleukin-6.Scientific Reports.9.802
・Tulbure,B.T.(2015)Appreciating the positive protects us from negative emotions; The relationship between gratitude.despression and religiosity.Procedia-Social and Behavioral Sciences.187.475-480
・Dickens, L.,&DeSteno,D.(2016)The grateful are patient: heightened daily gratitude is associated with attenuated temporal discounting.Emotion.16(4)421-425.
・Breines.J.G.,&Chen.S.(2012)Self-compassion increases self-improvement motivation. Personality & Social Psychology Bulleitn 38(9)1133-1143
・Emmons,R.A.,& McCullough、M.E.,Counting blessings versus burdents:An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life,Journal of Personality and Social Psychology,2003
・ Madhuleena Chowdhury、The Neuroscience of Gratitude and How It Affects Anxiety & Grief、PositivePsychology.com、2019
・Karns CM, Moore WE 3rd, Mayr U. The Cultivation of Pure Altruism via Gratitude: A Functional MRI Study of Change with Gratitude Practice. Front Hum Neurosci. 2017
・『科学的にしあわせになれる脳磨き』著者 岩崎一郎 出版 株式会社サンマーク出版
・『THE THREE HAPPINESS 3つの幸福』著書 樺沢 紫苑 出版 株式会社飛鳥新社