【事例で解説】「課題の分離」で組織課題を解決する! 〜アドラー「課題の分離」の重要性とリーダーに求められる具体的なアプローチとは?〜

『人間関係における悩みは、すべて対人関係の悩みである』——アドラー心理学の創始者であるアルフレッド・アドラーはこう言いました。職場の対人関係の問題は、「課題の分離」という思考法を適切に行うことで解決できます。この記事では、組織内での問題解決に必要な「課題の分離」についての解説と具体的な活用方法を紹介していきます。ぜひ、職場でアドラー心理学の「課題の分離」を活用して、スムーズな人間関係を築いていきましょう。

「課題の分離」とは

「課題の分離」とは、「他人の課題に介入しないこと」、そして「自分の課題に他人を介入させないこと」と考える思考法です。これは、「人間関係のトラブルは、“自分の課題”と“他人の課題”がごちゃまぜになっている状態から引き起こされる」とするアドラー心理学に基づいた考え方です。

そもそも「課題」とは、問題を改善するための取り組みのことであり、問題とは「理想」と「現実」のギャップのことを指します(課題と問題は、よく同じ意味の言葉として使われやすいですが、別物です)。

「課題の分離」とは言い換えれば、“自分がコントロールできる課題”と、“他人がコントロールする課題”を明確に分けることを指します。課題には、自分のコントロール下にあるものと、コントロールできないものがあります。他人の課題は、自分ではコントロールできません。日頃から、自分がコントロールできる課題に集中し、他人がコントロールする課題に関しては一喜一憂せず、お互いが相手の課題に踏み込まないようにすることがポイントです。

「課題の分離」が大切な理由

では、なぜ「課題の分離」が大切なのでしょうか。
「課題の分離」ができるようになると、対人関係を悪化させることなく、より健全な人間関係を築くことができます。
ここからは、個人としての視点と、組織としての視点から、「課題の分離」のメリットを解説します。

1.個人としての視点

「課題の分離」で自分の課題と他人の課題とを明確に分けられるようになると、人間関係の問題がわかりやすくなり、自分が何をすべきかが明確になります。なぜなら、「何が問題の原因なのか」や「誰が解決すべきことか」、そして「どのような解決策があるのか」を区別して考えられるため、自分がコントロール“できる”ことと“できない”ことは何かを区別して考え、具体的な解決策を考えやすくなるからです。個人で「課題の分離」ができると無駄な干渉や感情的な対応を避けられるので、冷静に対処できるようになります。

また、自分の課題に集中するとできることが明確になるので、結果的に自分を変えることができ、感情を整えやすくなります。健全な感情を保てることは、ストレスや不安を減らすことにもつながります。

2.組織としての視点

「課題の分離」ができるようになると、組織や社員にとってもメリットがあります。

「課題の分離」ができる社員は、自分の責任範囲や優先順位を明確にし、効率的に仕事を進めることができます。また、他人の課題に対しても、適切なサポートやフィードバックを行うことができます。これにより、組織全体の生産性や協働性が向上します。

さらに、「課題の分離」ができる社員は、自分の課題に集中して成果を出せるため、自信や満足感を得ることができます。また、他人の課題に振り回されず、自分の感情をコントロールすることで、ストレスや不安を減らすことができます。これにより、社員一人一人の幸福感やモチベーションが高まります。

まとめると、「課題の分離」ができるようになると得られるメリットは、以下の4つです。

  1. 人間関係の問題がわかりやすくなり、自分が何をすべきかが明確になる。
  2. 他者の課題に土足で踏み込まないことで、衝突や対立を避けることができる。
  3. 自分の課題に集中することで、自分をコントロールすることができる。
  4. 自分の感情を整えやすくなり、ストレスや不安を減らすことができる。
敦子
特にマネジメント層や中間管理職の立場で働いている人にとっては、人間関係は切実な問題ですよね。
組織は、常に他者との関わり合いの中で働いていく環境です。対人関係には、さまざまなコンフリクトや葛藤が生じます。
こうした対人関係の問題を緩和する思考法が「課題の分離」であり、前向きに仕事に取り組みやすい心理状態を整えることができます。

組織における「課題の分離」の【成功】事例

「課題の分離」の具体的な事例として、以下のようなものがあります。リーダー、経営者、部下の三つの視点から、「課題の分離」を職場で取り入れたケースを紹介します。

1.やる気がなく、ミスが多い部下への対応

Zさんは新人教育担当の上司です。新人の部下は仕事に対してやる気がなく、ミスが多い傾向にあります。

Zさんは部下に対して、仕事をすることはあなた自身の課題であると伝え、部下が仕事に取り組めるようにサポートをしました。

また、部下が仕事をすることで得られるメリットや目標を明確にし、部下自身が仕事に意味を見出せるように促しました。これにより、部下は自分の課題と向き合うようになり、徐々に仕事へのモチベーションやスキルが向上しました。

敦子
失敗例として、部下に対して、仕事をしないとクビになると脅したり、他の社員と比較して無自覚なモラルハラスメントをしているケースがあります。こういった上司の対応では、部下は自分の課題に気付けず上司の顔色をうかがうようになり、ますます仕事への関心や自信を失ってしまいます。

2.社内から反発を受けた経営者

Aさんは、先日、創業者である父親からバトンを渡されて組織の運営をおこなっています。ですが、役員会議で新しい施策のアイデアを話しますが、いつも反対や反発されてばかりいました。また、社員との面談でも不満や会社への要望ばかり言われるのが嫌になり段々と経営に対する意欲が下がってしまっていました。

そこでAさんは「課題の分離」を取り入れた結果、自分の課題は、先代の社長や役員からまずは信頼されることだと気づきました。そして、信頼されるための行動や、彼らが納得できるエビデンスをもとにしたプレゼンを行うことで新しい企画にも賛同してもらえるようになりました。

また、社員の不満や要望も社員自身の課題と組織の課題を一緒に考えることで、彼らの自主性を引き出すことができるようになりました。いまでは、会社のビジョンや方針を明確に伝えるとともに、各部署や個人の目標や役割を明確にしています。また、社員が自分の課題に取り組めるように、必要な資源や情報を提供したり、フィードバックや評価も適切に行ったりしています。これにより、社員は自分の課題と会社の課題とを分けて考えることができ、能動的に仕事に取り組む環境が育っています。

敦子
業績が低迷して社員にも不満が蔓延している組織では、会社のビジョンや方針が不明確で何をすると評価されるのかがわからないままの状態が見受けられます。各部署、個人の目標や役割も不明確で、過度に経営者自身が干渉してしまったり、業務の遂行に必要な資源や情報を与えなかったりと、フィードバックや評価は一方的なものになっています。

いかがですか? このような組織で働くと人は、受動的で言われたことしかやらなくなるか、あるいは、優秀な人ほど辞めてしまい人が定着しない組織になります。

3.上司との認識のずれ

Mさんは、仕事でミスをしました。ですが、そのミスは、事前に上司に確認をとったことでもあるので、何故自分だけのミスになるのか納得ができません。以前にも、上司の指示で動いたのに結果、自分に不利益なことにつながり理不尽だと感じることが頻発していると感じていました。上司にも会社にも不信感が募っています。

「自分の課題は何か? 自分のできることとできないことは何か?」を考えた結果、まずは上司に自分が感じていることや同じことが起こらないようにするにはどうしたらいいかを相談してみることにしました。ただ、上司への不信もあるので中立的な立場の第三者にも同席してもらい面談を実施しました。結果としては、上司サイドにも感じていたことや考えがあることに気付けて、一方的な理不尽さが緩和されました。また、今後はコミュニケーションの頻度を高めて話し合いながら進めていけることになりました。

敦子
こういった、認識の相違は、組織内で良く起こることです。相手ばかりに非があると思い込んでいると視野が狭くなり、パフォーマンスやモチベーションを低下させてしまいます。組織にとっても、当人にとっても不利益な結果になるでしょう。

組織における「課題の分離」の【失敗】事例 〜リーダー編〜

ここからは、「課題の分離」ができていない事例です。組織では、特にリーダーが「課題の分離」を行えないと、部下や組織に悪影響を及ぼします。「課題の分離」ができないリーダーが陥る問題と、それが及ぼす影響を解説します。

1.部下の成長を妨げる。

NG:部下に自分のやり方や考え方を押し付けたり、部下の自主性や主体性を尊重せずにコントロールしたりしようとする。

敦子
上司がやるべきことは、部下が自ら成果を出せるように環境を整えることです。部下が自分で考えたり、試行錯誤したりする機会を奪ってはいけません。上司が部下との関係で「課題の分離」ができないと、部下は自信や能力を育てられず、依存心や消極性が強まってしまいます。

2.自分の負担やストレスを増やす。

NG:部下の課題に過度に関与したり、責任を引き受けたりする

敦子
部下と自分を同一視してしまうため、自分の課題に集中できなくなります。また、部下の結果に対して過剰に期待したり、不満を抱いたりすると、自分の感情が揺さぶられます。その結果、自分のパフォーマンスやモチベーションが低下し、疲労や焦りが溜まります。

3.組織の生産性や協働性を低下させる。

NG:部下の課題に口出ししたり、指示しすぎたりする

敦子
部下は自分の意見や提案を出しにくくなります。また、他部署や他者の課題に対しても干渉したり、批判したりすると、信頼関係やコミュニケーションが損なわれます。その結果、組織全体の創造性や柔軟性が失われ、問題解決や改善が遅れます。

「課題の分離」をするときのコツ

ここまで、事例を交えて「課題の分離」が大切である理由をお伝えしてきました。では、どのように実施したらよいでしょうか。ここからは「課題の分離」を行う際のポイントを、個人編と組織編に分けてご紹介します。

1.個人で「課題の分離」を習得する方法・意識するポイント

① 自分の課題と他人の課題を明確に区別する。

自分の課題は自分でコントロールできること、そして他人の課題は自分ではコントロールできないことを理解してください。自分が責任を持って対処できることと、そうでないことを見極めることで、無駄なエネルギーを消費しないようにするためです。自分がコントロールできないことばかり考えていると無力感が高まりモチベーションも下がってしまいます。自分の課題に集中して、自己肯定感や達成感を高めましょう。

敦子
コントロールできる範囲に集中すると、「自分で問題を解決できた!」という実績を実感できます。その結果、自己肯定や効力感など自己を評価する認識が高まります。できることに集中しやり遂げることは、達成感や充足感が生まれますよ。
問題と関係者を書き出し、「誰にどのようなデメリットが発生するのか?」「直接困るのは誰か?」を書き出してみましょう。

②自分の課題に集中し、自分にできることをやる。

他人の課題に一喜一憂しないようにしましょう。他人の課題に関わることで感情が揺さぶられたり、ストレスを感じたりするのを防ぐためです。他人の課題は自分では変えられないことが多いので、それに振り回されても何も得られません。

敦子
「このことで一番困るのは誰なのか?」を書き出してみましょう。客観的に捉えられると、冷静に課題を振り分けられますよ。

③定期的に気がかりなことを書き出し、課題を整理する。

自分の課題は優先順位をつけて取り組みましょう。自分の課題と他人の課題を明確化し、整理し、計画的に対処するためです。気がかりなことを書き出すことで、頭の中がスッキリし、客観的に見ることができます。

敦子
優先順位をつけることで、重要なことから順番に解決していけますよ。

2.組織で「課題の分離」を習得する方法

組織のメンバー一人一人が「課題の分離」を習得するために、「課題の分離」に関するワークショップ、研修、セミナーなどを開催し、組織のメンバーに理論や方法を学ぶ機会を提供する方法などがあります。人事が主催して 「課題の分離」に関するケーススタディやロールプレイを行い、メンバーに「課題の分離」を実践するスキルを身につけさせたり、フィードバックやコーチングを行ったりして定着させていきます。

また、トレーニングだけでなく組織の文化や風土も「課題の分離」を促進するように変えていく必要があります。
例えば、

  • 組織のビジョンやミッション、目標や方針などを明確にし、組織のメンバーに共有する。
  • 組織のメンバーに対して、自分の役割や責任、期待値などを明確に伝える。評価に関しても誰の成果なのかがわかりやすく反映されるようにする。
  • 組織のメンバーに対して、自分の課題に対して自主的に取り組むことや、他者の課題に対して尊重や応援をすることが良いと認識できるような制度や体制を整えていく。

などです。

敦子
個人には「自らのことはわかりにくい」という盲点があり、組織には今までのやり方やパターンからバイアスがあるため、自分たちで課題を振り分けるには限界があります。積極的に第三者を介入させることが効果的で効率的な方法でもあるので、Starting Pointへのご依頼もぜひご検討ください

まとめ:「課題の分離」のスキルで組織課題を解決しよう

自分を変えられるのは、自分しかいません。他者に期待したり、依存したりすることではなく、自分の力で人生を切り開くために必要な考え方が「課題の分離」と言えるでしょう。
「課題の分離」は、個人のみならず組織や社員にとって非常に重要なスキルです。自分の課題と他人の課題を明確に区別し、自分にできることに集中することで、人間関係のストレスを軽減し、自己肯定感や達成感を高められます。

しかし、「課題の分離」は一朝一夕に身につくものではありません。日々の仕事やコミュニケーションの中で、自分の課題と他人の課題を意識的に見分け、整理し、対処することが必要です。

ぜひ、「課題の分離」の学習やトレーニングする機会を設けてみてください。あなたも「課題の分離」ができるようになれば、仕事も人生ももっと楽しくなるはずです。

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執筆:鈴木敦子

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