組織の課題、見て見ぬふりをしていませんか。組織課題は事業ステージや規模によって変化しますし、明確になっていない潜在課題もあるものです。課題をそのままにしていては、成長スピードに影響し、取り返しのつかない状態になりかねません。本記事では、成長する組織にありがちな4つの課題と、インハウスで適切に組織課題を見立てる方法、そして課題解決を導くマネジメント視点をご紹介します。
目次
課題と解決手法がズレると、問題は解決しない
こんにちは。組織開発コンサルタント・行動促進研究家の鈴木敦子です。
組織に何かしらの課題を感じていらっしゃる企業の多くが、組織開発にまつわる研修に参加されたり、HR業務の専門コンサルタントにご相談をしていらっしゃると思います。しかしながら、「結果が思うように出なかった」と話す企業担当者は少なくありません。
そこには、組織課題の見立てと解決手法の不一致があると私は考えます。つまり、見立てた組織課題と解決手法のどちらか、もしくは両方が適切ではないということです。
では、どうすれば課題の見立てと解決手法を正しく設計できるのでしょうか。まずは、問題と課題の違いから考えます。
組織の問題と課題の違いとは?
問題とは、目指すゴールと現状との間にあるギャップのことです。
組織には、成し遂げたい目標や目指す方向があります。経営層やマネジメント層は、「組織がいつ、どのような状態になっていることがベストか」を考え、目指すゴール地点へ向かって、組織に資源を投資していきます。このとき「目標達成のために、解決しなければならないことがら」が問題となるのです。そして、問題を解決するために起こす具体的なアクションが課題になります。
「足りない」状態が組織成長を阻む。起こりやすい組織課題4つ
成長する組織には、起こりやすい課題が4つあります。
- コミュニケーション不全
- 組織体制の不備
- オペレーション不全
- カルチャーや風土の整備不全
どのような課題なのか、詳しく見ていきましょう。
①コミュニケーション不全
組織のコミュニケーション不全とは、コミュニケーションが充分ではない状態のことです。コミュニケーション不全は、業績、効率、生産性にもっとも悪影響を与える課題です。次のような言葉や事象が目立つときは、コミュニケーション不全が課題です。
- 目的がわからず業務の意義が見いだせない
- 士気があがらない(モチベーションの低下)
- 必要なことが報告されない(状況把握ができない)
- 困ったことがあっても言えない(聞いてもらえない)
- 優秀な社員が辞めていく、人が定着しない
- 意見や提案がでない
- 改善されない
- 同じミスが繰り返される
- 手戻りが多い
- 体調不良になる社員が多い
②組織体制の不備
組織とは、ひとつの目的を達成するために集まった集団であり、体制とは組織が円滑に機能するための仕組みです。組織の成長に合わせて、体制も変化していくもの。いつまでも過去の体制では、次々と問題が発生してしまいます。
次のような事象がある組織は、体制を見直す必要があります。
- 制度や仕組みが現場で機能していない
- 教育を施しても人が育たない
- 任せられるリーダーが不在
- 能力の格差や報酬、待遇の偏りがある
- 属人化していて、代わりがいない
③オペレーション不全
オペレーション不全とは、実務の仕組みがうまく機能していない状態です。オペレーション不全は、利益のマイナスに直結し、人が疲弊する要因にもなる怖い課題です。
次のような事象があるとき、オペレーション不全が起きていると考えられます。
- 残業が多い
- 社員が疲弊している
- 生産性があがらない
- 非効率だと感じている人が増えた
④カルチャーや風土の整備不全
カルチャーや風土の整備不全とは、組織にカルチャーや風土がない、もしくは形だけで実行していない状態のことです。社員が協力しあって働くうえで、今や企業カルチャーは欠かせません。また、社会に対して企業の存在意義を高めるためにも、理念や方針、指針が必要です。
本来カルチャーや風土は、経営層がリードして作っていくもの。1人1人の認識と行動から「なんとなく」育むカルチャーは、組織が大きくなるにつれてまとまらず、情報連携が難しくなります。意図して構築していくことが不可欠です。
下記のような事象があるときは、カルチャーや風土を見直しましょう。
- 戦略や理念、経営方針が全員に浸透せず、実行されない
- 部分最適、全体視点のバランスが失われている
- 属人化した勘や経験に依存している
- 声の大きい主張の強い人にふりまわされる
- 諦めがまんえんしている
- 認識がバラバラで、対立や多発している
- 当事者意識、他者や顧客視点が失われている
くり返しとなりますが、組織に問題があるということは、目指すゴールと現状にギャップがあることを表しています。もちろん、問題がいつの間にか解決することはありません。
リーダーやマネジメント層は、変わり続ける市場に対して、つねに組織を適応させていく必要があります。適切な組織課題の抽出を行い、放置しないことが重要です。
現在も「困ったなぁ」と感じることがあるなら、すぐに行動してください。未来の大問題につながる小さな芽を摘み取っていきましょう。
組織課題を発見する対面と非対面の方法
とはいえ、「なんとなく組織がうまくいっていないようだが、課題の見つけ方がわからない」というケースがほとんどでしょう。
続いては、組織の課題を発見し、見立てる方法をご紹介します。
組織課題を見つける方法は、非対面と対面に分かれます。
①非対面(アンケート/サーベイ/日報など)
②対面(1on1ミーティング/ワークショップ形式のアウトプットなど)
アンケートなど広く効率的に課題を見つける非対面式の方法
非対面での課題発見では、アンケート、サーベイ、日報などの手法が用いられます
- 社員アンケート
設問を設定し、幅広く意見を求める - ストレスチェック
社員の心理的、身体的な健康状態の調査 - 従業員サーベイ
制度構築や仕組みを考える際に広く社員に意見を求め、検証 - パルスサーベイ
満足度や状況の調査。短期間。 - エンゲージメントサーベイ
診断ツールを用いて組織状態を可視化 - モラールサーベイ
社員のパフォーマンス向上に必要な要素の分析 - 日報/月報
- 日々の業務報告
これらの手法は、状況に応じた使い分けが必要で、質問によって得られる回答が変わります。また、得た結果の捉え方次第では、うまく活用できない場合もあります。気をつけたいのは、サーベイの実施が目的となってしまい、現場不満を高めてしまうケースです。日々の業務外の取り組みを行う際は、「なぜサーベイをするのか?」を定義し、サーベイ実施後の取り組みまでを設計しましょう。
「聞く」「話す」から課題を見つける対面式の方法
対面での課題発見には、1on1ミーティングやワークショップ形式の手法があります。
1on1ミーティング
質問し、答える問答法です。問いを活用し、部下やステークホルダーの成長に必要な関わりを行います。継続的な1on1ミーティングは、成長支援にとどまらず、組織内に潜む問題や課題を知るきっかけにもなります。
ワークショップ、研修など
社員同士の認識をすり合わせたり、アイディアを募る場面では、グループディスカッションやワークショップが効果的です。
外部機関の組織診断
組織内部に取り組むべき課題が山積している場合、1on1ミーティングやワークショップでは、社員は本音を話しません。そのような場合は、社内でいくら調査やヒアリングを行っても真の課題の発見・設定が困難です。このとき、外部機関の組織診断の活用がおすすめです。
たとえばStarting Pointが行っている組織診断は、傾聴やコーチングを専門とするスペシャリストが、ヒアリングと調査を行います。勤続年数や属性、役職・階層から、良くも悪くも影響力の強い人材を選びだし、丁寧にヒアリングをします。
ヒアリングは、8つの視点で行います。
- コミュニケーション環境
- 目的や目標の共有
- 役割の定義と認識
- オペレーションフローの改善点
- 影響力のマップ
- カルチャーと風土の傾向
- 社員、上司部下の関係性
- 個別メンバーの状態
コーチングやコミュニケーションを学んだスペシャリストによるヒアリングは、本人も認識できていない違和感や不明瞭な課題への気づきを促します。顕在化されている課題だけでなく、潜在的な根本要因をあぶりだすことができます。
組織課題の解決に欠かせないマネジメント視点3つ
続いては、見つけた組織課題に対して、経営層・マネジメント層が持つべき視点をご紹介します。
「すべての課題に対応できる方法」のような万能な対策は存在しません。置かれている環境、人、会社の業績によって、課題は複雑に変化をします。そこでマネジメント層には、組織課題を解決するための本質的な視点を持っていただきたいと考えます。
それは、次の3点です。
- 組織構造とシステム構造の両方に目を向ける
- 個人のBeingとビジョンを明らかにする
- 日常の問題や課題を学習機会に転換する
組織構造とシステム構造の両方に目を向ける
組織構造(組織図や権限、指揮・命令系統のこと)とは、企業が事業戦略を実行し目的を達成していくため、戦略に基づいて定めていくものです。本来、職務・部門・指揮系統は、具体的に定義され、人やリソースが機能的に配置されていきます。この組織構造を具体化し、整えることは組織課題の解決につながります。
しかし組織構造を整えたのに、課題が解決されないケースは少なくありません。
たとえば、対処したと思ったのに次の新たな問題が出てくる「問題のスライド」や、改善しようと努力しているのに、また別の困難な事象が発生する「相殺フィードバック」があります。
もう少し、具体的に考えてみましょう。
「新卒社員の離職率が高い」問題があり、「新人が育成できていない」という課題があるとします。そこで、組織構造を整え、新人1人ひとりにメンターをつけた場合、離職率は改善するでしょうか?
残念ながら、スッキリとした解決は難しいかもしれません。
なぜなら、組織は個人からなる集合体だからです。便宜上定めた構造が、自動的に成立していくわけではありません。組織構造(制度や体制)だけでなくシステム構造(組織内のコミュニケーションやカルチャー、風土)にも目を向け、個々人の関係しあう要素の因果を、部分と全体から考察していく必要があります。
システムとは、ラテン語に由来し「一緒に」「立つ」という意味を持ち、関係している要素がある種の秩序を保ちながら、保持されている状態を意味しています。そこには、目的を達成するために協働し、何らかの手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーションがあります。課題を抱える組織の多くは、この関係しあう要素の特定に失敗しているんです。
組織構造とシステム構造の両方に目を向けることを、忘れないようにしましょう。
個人のBeingとヴィジョンを明らかにする
組織を支えるのは、言わずもがな人です。
組織に属する個人が、どのような前提や信念をもっているか?思考や行動が組織に及ぼす影響は、とても大きいものです。課題を解決するために業務を自動化したり、ツールを導入しても、それを担う人が機能しなければ意味がありません。そのために、個人のBeing(在りかた)とビジョンを明らかにし、個人の能力が最大限に発揮されるような関わりを持ちましょう。
Beingは、生来的なものから派生し、後天的に習得するプロセスを通して形成されますが、具体的に言語化できている人は少ないのが現状です。
個人のBeingを明確にし、当人のモチベーションが向かうビジョンを設定すると、人は自分自身に期待し、最大限に能力を発揮できるようになります。
マネジメント層は、メンバーが的確なビジョンを設定できているか?を確認しましょう。クリエイティブテンション(創造的緊張)が生じているかを見ることで、ビジョンの的確さがわかります。
クリエイティブテンションとは、ビジョンと現実の乖離に生じる心理的作用です。どうしても成し遂げたいという感覚や感情を伴ったビジョンと、現実の乖離にクリエイティブテンションは発生します。この心理的作用が生じるゴールを設定すると、達成したいという意欲やモチベーションが高まり、創造性が発揮されていきます。
ただし私たちの脳には、「自分のことはよくわからない」という盲点が生じます。正しいビジョン設定には、上司やメンター、コーチなどの第3者の関わりが不可欠です。
日常の問題や課題を学習機会に転換する
人の成長は、すなわち組織の成長です。人材育成に力を入れる企業は「良い企業」と見られますし、実際に多くの企業が費用を捻出し、育成や教育に投資を行っています。
育成や教育のポピュラーな手段に、研修があります。しかし研修には、学んだことが現場で実践され、成果が生み出される「研修転移」が低いという課題があるのです。
カナダの企業258社で行われた調査(Hugues&Grant2007)では、研修直後のサーベイで、研修を受けた従業員の47%が学んだ内容を現場で実践すると回答する一方、その1年後には実践するの回答が9%に減っているという結果が出ました。このほかにも、研修や非日常の学びが現場で実践されるのは10~20%くらいという研究結果が、多数報告されています。
研修は新鮮で刺激にあふれています。カンフル剤としての機能はありますが、課題を直接解決する糧にはなりにくいのが実情です。課題解決を学ぶ機会は、まさに日々の業務や組織課題の中にこそあると考えましょう。
最もインパクトのある学習は、直接的な体験です。たとえば、「失敗を次に生かせる風土」「ふりかえりや検証の時間が設けられている」といった組織では、毎日が学びにあふれています。ぜひ、日常業務を学習機会に変える環境を整備しましょう。
組織課題の解決は、継続的に取り組もう
企業は変わり続ける市場に対して、つねに変化と適応をくり返しながら成長する必要があります。組織課題はつねに存在し、放っておいても勝手に解決していくことはありません。手遅れな状態になってから慌てて取り組むことは、企業成長を鈍化させてしまいます。適切な課題の発見と解決への継続的な取り組みをしていきましょう。
執筆:鈴木敦子 / イラスト:竹内巧 / 編集:マチコマキ
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