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組織開発から医師・医療関係者の働き方改革を目指す
今回ご紹介するクライアントは、茨城県守谷市で、産婦人科「お産の森 いのちのもり」を経営する篠﨑医院です。
篠﨑医院は、周産期ケアの充実と持続的な経営体制の構築のため、働く1人ひとりが主体的に動く自律型組織の構築に力をいれています。StartingPointの鈴木敦子は、中間管理職へのコーチングセッションを通し、同院の組織開発を支援しています。
1年間のコーチングを経て、篠﨑医院は理想とする組織へと大きく前進しました。クリニックが抱えがちな問題とその対応方法も交えて、組織開発コンサルティングの実例をご紹介します。
事業の拡大フェーズに入り、組織体制の強化へ
篠﨑医院は、2008年に開院。今では、「第2子もお産の森で産みたい」と話す妊婦さんもいるように、地域に密着した産婦人科として認知されるようになりました。篠﨑医院で働く職員とスタッフの数も増え、開院当初から2倍の30名が所属する組織へと成長しています。
企業には、事業規模に適した組織体制が必要です。篠﨑医院でも、1人ひとりが主体的に考えながら、チームで周産期ケアにあたれるようにと組織を再編。院長と副院長をトップに、師長と事務長を置き、助産師・看護師を中心とした病棟・外来チームと、事務チームに分かれた体制を設定しました。
クリニックが抱えていた課題とは?
ところが、設定したはずのレポートライン(指示・報告系統)がなかなか機能せず、複雑化していました。その結果、現場で起きたことの判断を院長や副院長に一任してしまい、院長に時間的な負荷がかかっていたのです。さらに業務が非効率化し、患者さんの待ち時間が長くなってしまうなどの問題が起きていました。
また、少子化などに伴い、産婦人科の閉院も珍しくはありません。持続的な経営をしていくためには、篠﨑医院のビジョンに共感できる人材の採用が必要です。篠﨑医院では、求める人材像と入職する職員のミスマッチがたびたび起きており、職員の採用は課題でした。
・組織体制の未定着
・レポートラインの複雑化
・管理職の役割の未定義
・採用のミスマッチ
クリニックに適した組織変革の施策をオーダーメイドでプランニング
相談を受けた鈴木は、まず院長や副院長をはじめ、現場スタッフの皆さんに現状のヒアリングを行いました。(Step1)
そしてヒアリングをもとに、関係者間(院長・副院長・事務長・師長)で現状の問題や課題をすり合わせていきます。その上で、「お母さんが安心して安全な出産に臨める産婦人科を運営するには、どのような組織であるべきか」を考え、篠﨑医院が目指す組織像を次のように言語化しました。(Step2)
・スタッフ全員が自分で考え判断し、適切に動く自律した組織
・助産師、看護師が自信を持って能力を発揮できる職場
・妊婦さんと丁寧にコミュニケーションが交わせる時間と気持ちの余裕がある組織
・持続可能な経営体制の構築(採用のミスマッチの防止、人材育成の体系化)
具体策:キーパーソンコーチングとミーティングファシリテーション
続いては、目指す組織像を実現するための具体案のプランニングです。(Step3)
篠﨑医院で働く職員の皆さんは、お母さんと赤ちゃんの安全と健康を第一に、丁寧で優しい周産期ケアに努めるという共通の目的を持っています。いっぽうで、組織作りに関わる経験を持つ方が少なく、「どのように振る舞うことが適切なのだろうか?」と、戸惑っている様子が見受けられました。これらを受け、次の具体策をプランニングしました。
- キーパーソンへの個別コーチング(マネジメントに必要な能力スキルの個別レクチャー)
※キーパーソンとは、組織に大きな影響を持つ人のこと。組織課題により、キーパーソンは異なります。 - 組織全体へのアプローチとして、経営層と管理職との定例ミーティングを実施(コーチによるミーティングファシリテーション)
実践:定例ミーティングでコミュニケーションの質を高める
実践フェーズ(Step4)では、キーパーソンの師長と事務長のコーチングセッションをスタートし、管理職の意識変革を行いました。さらに、院長、副院長を交えた4名で話す定例ミーティングを設け、院長の思考と現場の方向性をすり合わせていきました。
ポイントは、定期的に話す機会を意識して作ったことです。日々の忙しさを優先してしまうと、問題を先送りにしがちです。また、問題が起きてから話し合いをしていては、対応が遅くなってしまいます。鈴木はファシリテーションとして定例ミーティングに参加し、コミュニケーションのもつれから生じる現場の問題に対して、解決のためのアドバイスを行いました。
院長たちと師長、事務長は、これまでコミュニケーションをしていなかったわけではありません。あらためてコミュニケーションの目的を定め、その質を高めた結果、組織として目指す姿がはっきりし、それを実現するための具体的な行動方針を考えることができました。
成果:管理職から自発的な行動が生まれ、指示・報告がスムーズに
師長と事務長それぞれが、「管理職として何をするべきか?」を明確に認識し、それに沿った行動をとれるようになりました。定例ミーティングにより、院長が考える組織の方向性や判断の価値観が2人に浸透しているため、現場でも適切な判断ができています。
その結果、院長に委ねられていた意思決定や相談ごとが減り、院長に時間のゆとりが生まれました。院長の「妊婦さんに細やかなコミュニケーションをしたい」という理想が、より実現できるようになっています。そして、なによりも「自分たちで組織を変えられた」「理想の組織に近づいている」という実感が、日々の仕事のモチベーションを高めています。
1年間を振りかえって(皆さまからの声)
篠﨑医院の皆さん(副院長、師長、事務長)に、1年間のコンサルティングを振りかえっていただきました。
鈴木さんには、コーチングセッションだけでなく、定例ミーティングにも同席いただいています。現場スタッフにも分かりやすい言葉づかいをされますし、スタッフが安心して相談できる存在でもあり、良かったです。
視野が広がり、今ではスタッフごとに成長支援の方法を考えた関わりができています。人材育成を通じて組織全体のレベルアップを図ると同時に、「師長がいるから安心できる」という存在になりたいです。
今は、スタッフの不満を聞くだけでなく、前向きなアドバイスをできるようになっています。組織の成熟へ向けて、経営や人事にまつわることもサポートしていきたいです。
しかし今は、まず師長や事務長が自分自身で考え、現場に指示を出せるようになっています。おかげで、私たちに時間的なゆとりが生まれ、診療や経営に集中できています。2人への信頼度がさらに増しましたね。
篠﨑院長に聞く、今後の展望
現在、篠﨑医院では、コーチングの対象を広げ、師長と事務長だけでなく、現場のリーダーともコーチングを行っています。また、1年間の取り組みを経て、篠﨑医院で活躍できる人材像がより具体化しました。人材育成や採用にも生かしていく予定です。
篠﨑院長に、組織開発コンサルティングへの感想と今後の展望をうかがいました。
私自身、鈴木さんと話すことが頭の中を整理する良い機会になっていました。鈴木さんは「将来はどうありたいですか」と聞くんです。開院してから、まずは産婦人科医としての務めをまっとうすることに一生懸命でしたから、その先のことは意識していませんでした。しかし、あらためて問われることで、守谷市という場所で産科を営むことの輪郭がはっきりしてきたんです。
すると、毎日の診療にも自信が持てます。当院の基本方針は「優しく丁寧に」ですが、「優しい」にも「丁寧に」にも、たくさんの解釈があります。ときには妊婦さんにとって厳しい話をすることもありますが、それも「優しく丁寧に」なんです。篠﨑医院の「優しく丁寧に」とはどういうことか、私たちの中で言語化されて、まとまってきた実感があります。理想の組織まで、まだまだ道半ばですが、助産師や看護師が自信を持って活躍できる場を、私は医療技術という後方支援を持って支えていきたいです。
ミッションの言語化と行動がリーダーシップを育む
定例ミーティングによる課題共有と具体策の言語化、そして個別コーチングの両輪で、師長と事務長の行動は大きく変わりました。
組織が成長してくると、トップ層の考えや声が組織全体に届きにくくなります。トップの意向を踏まえた行動や発信ができる管理職の存在は、組織に一体感を生み出します。師長や事務長は、そんな存在へと大きく成長されました。また、院長が描いていた篠﨑医院のビジョンや方針が一層明確になり、組織への発信力が高まっています。
医療の仕事では、瞬時に的確な判断が求められます。医療現場の管理職には、スペシャリストとジェネラリストの両方を兼ねそろえ、組織を未来のあるべき姿へ進めるために、今必要なことを考えられる人物が適任です。そして、現場で働くスタッフもセルフマネジメントができ、主体的に行動できるスキルが求められます。そのような人材が集まり、生き生きと働く職場は理想ですよね。StartingPointは、今後も篠﨑医院の組織開発をサポートして参ります。
クリニックの規模や成長フェーズ、理想とするビジョンに応じて、課題は異なります。StartingPointでは、クリニックや組織にあわせたオーダーメイドのコンサルティングを行います。「こんなクリニックにしたい」というビジョンの策定も承ります。どうぞ、お気軽にご相談ください。