中高年・ミドル社員の心理的変化を知り、幅広い人材のスキルを生かす組織になろう

こんにちは。組織開発コンサルタント・行動促進研究家の鈴木敦子です。

先日、中高年社員のモチベーション維持の難しさをテーマに、人事パーソンと対談したブログを公開しました。中高年層のモチベーションやパフォーマンスの低下、リーダーの不在は、よく聞く組織課題です。わたしも、日々ご相談をいただいています。

あなたの組織では、どんな中高年社員の課題がありますか?

中高年層の課題解決は、この世代特有の心理的変化を理解するところから始まります。今回は、経営層や人事パーソン、マネジメント層の方を対象に、中高年社員のキャリアを生かす組織作りのポイントをお話します。

中年期のアイデンティティ・クライシスを理解する

はじめに、中高年期によく見られる心理的変化を解説します。
(事例に登場する方たちは、多数いただくご相談をベースとした架空の人物です)

モチベーションが落ちてしまった50代男性

50代の男性・Aさん

まだまだ働き盛りですが、定年までのおおよその報酬や与えられるポジションが想像でき、「こんなはずでは…」とやる気が起きません。すでに見えるゴールに向かって、期待やモチベーションを維持するのは難しいとぼやいています。

Aさんは、組織で働く上での終着点(退職・定年)がおぼろげながら見えはじめている状態です。では、なぜモチベーションが落ちてしまうのでしょうか。

モチベーションは、成し遂げたい目的・目標に向かって働く心の動きです。目指す目標が近づいてくると、脳の中では作り上げたイメージと現実のギャップが小さくなります。このギャップが小さくなると、情報を一致させようと作用する脳の動き(創造性)が弱まり、モチベーションが低下してしまうんです。これは自然な心の作用ですが、つねにモチベーション高くあるためには、新しい目的をイメージし続ける必要があります。

Aさんも若い頃は、「あれがやりたい、これも挑戦してみたい」と次々に新しい目標をイメージしていました。「これをやるぞ!」という理想と現実のギャップが創造性を刺激し、モチベーションとなっていたのです。

しかし、中高年となった今、組織内でのゴールは退職・定年しかなく、強いリアリティ(現実感)を伴います。結果、モチベーションが落ちているのです。

現実問題として、中高年社員が所属している組織の中で先のゴールをイメージするには、限界があります。中高年社員の目指す目標(ゴール地点)の設定は、仕事組織の中だけで考えず、私生活も含め、残りの個人の人生をどう生きるかの視点で考えることが大切です。

成長機会を失ったと悩む40代女性

40代後半の女性・Bさん

40歳を越えたあたりから、成長の鈍化を感じています。かつては、実務経験をひたすら積む努力をしてきましたが、今は職場に新しい体験の機会が減少していると考えています。しだいに若い世代との自分の間に感性のずれがあるのでは?と思い始め、社会から取り残されているような感覚を持ってしまいました。

自分は成長していないのではないか?と危機感を抱くBさんのように、40歳前後は、自分の市場価値に疑問を感じやすい時期です。行動できる方は、今までのやり方を変えようと転職を考えたり、知識の幅を広げるために学び直しの自己投資をする傾向があります。

優秀な人材であればあるほど、成長機会の損失に危機感をもちます。彼・彼女たちが自組織で活躍できるための組織づくりも、重要課題です。自組織内で新しい体験の創出が難しいならば、積極的に副業や社外の活動を促し、外部に成長機会を作る環境を整えましょう。

誰にでも起こるアイデンティティクライシス

AさんやBさんのケースは、決して珍しいことではありません。成人発達の全体像を研究し、ライフサイクルの概念を展開したユングらの研究によると、中年期(40歳~60歳)には、転換期と呼ぶ危機(アイデンティティクライシス)が訪れるとされています。

中年期は、身体の衰えや家族のライフサイクルの変化、職場での変化などの要因が重なる時期です。今まで価値を置いてきたものや理想とするもの、目指すものが逆転する分、アイデンティティの再構築が必要となるのです。

中高年社員に対して、組織ができること

組織が力入れるべき4つのポイント

ここまで、中高年期の心理的変化を解説してきました。
では、会社組織や人事部は、中高年の社員に対してどのような働きかけができるのでしょうか。大きく4つのポイントにまとめました。

  1. 関係構築と成長支援
  2. 副業や独立支援
  3. 評価制度の整備
  4. 組織と個人の存在目的をすり合わせる

ひとつづつ解説していきます。

1.関係構築と成長支援

組織・上司・先輩が、業務課題のサポートだけでなくメンタル面もフォローする制度を作りましょう。レポートラインの上下関係だけでなく、関連部署や違うチームのメンバー達との繋がりが、相互啓発をうみだし、意欲を高め、帰属意識を強めます。

2.副業や独立支援

転職理由の上位には、「年収を増やしたい」の他に、「自分の能力は市場で通用するのか」の理由もあがっています。現職以外の仕事に触れる機会は、成長意欲を高めスキルアップにもつながります。前向きに外の世界にも踏み出せるよう、副業や独立支援の制度作りが効果的です。

3.評価制度の整備

給与の定義を明確にしましょう。本来給与は、利益貢献やスキル評価に基づくものです。「何をすると給与があがるのか?」といった、わかりやすい還元の仕組みが行動意欲を高めます。

4.組織と個人の存在目的をすり合わせる

組織が「組織はなんのために存在するのか?」の目的(パーパス)を設定するように、個人にも目的(パーパス)が必要です。行動を起こすには、目指す方向が明確になっている必要があるからです。自らが成し遂げたい未来のイメージがあるからこそ、主体的に行動を起こせます。

業務において、社員それぞれに個人目的(パーパス)を設定している企業は多いと思いますが、さらに重要なのは、組織と個人の目的を合わせることです。個人の力には限界があります。組織と個人の目的を合わせることが、組織に所属する意義につながります。

とくに、定年という言葉が頭にチラついてくる年齢は、近視眼的になりがちです。組織で活躍できる範囲が狭くなり、ポジションへの期待が薄れるためです。ですから、組織内でのキャリアデザインではなく、人生全般を見据えた個人の指針を明確にすることが大切です。

抽象度の高い個人の目的(パーパス)設定は、中年期以降のモチベーション維持に不可欠です。組織と個人の目的が合致する(パーパスマッチング)することで、帰属意識が高まり、成長や達成意欲も高まります。


これからの未来に必要なのは、変わりゆく外的環境に対して柔軟に対応できる人員体制や変化に対応できる組織風土の構築です。

社員のモチベーションを維持する働きかけと平行し、採用時点からの意欲喚起にも目を向けましょう。組織風土にフィット感があるだけでなく、精神面の自立度や行動欲求を考慮した採用が重要です。スキル習得や成長支援を採用時から訴求することで、スキル向上の動機が生まれます。

中高年社員のキャリアをいかす組織作りのまとめ

  1. 脳の仕組みから「モチベーションや創造性の低下がなぜ起きるのか?」を理解して、関わることが大切です。目指す目標(ゴール地点)の設定に、解決の糸口があります。
  2. 成長機会を求める人ほど、優秀な方が多いです。優秀な人材確保と維持のために、組織と個人の両方に意義のある組織体制や風土構築に取り組みましょう。
  3. 加齢による身体変化、家族のライフサイクルの変化など、中高年期に起こりやすい心理的負荷を考慮し、関わりましょう。理解者がいることは、継続的なパフォーマンス維持のためにも大切です。
  4. モチベーションの維持は、中高年層に限った話ではありません。採用から育成、関係構築まで強い組織を作るためには、「採用時点からの意欲喚起」「関係構築と成長支援」「副業や独立支援」「評価制度の整理」「パーパスマッチング」が大切です。

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執筆:鈴木敦子 / 編集:マチコマキ

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