優秀人材(ハイパフォーマー)の離職を防ぐ、リテンションマネジメントとは
Asian and Latin business people who do not work well

こんにちは。組織開発コンサルタント・行動促進研究家の鈴木敦子です。

採用に多額のコストを費やすいっぽうで、ニーズにマッチしなかったローパフォーマーの対応に追われる。さらに優秀な人材までも離職してしまう…という悪循環に、疲弊している人事担当者は少なくありません。

言わずもがな、ハイパフォーマーの離職はビジネスの成長にマイナスの影響を与えます。優秀人材の離職を防ぐには、根本の原因を特定し、リテンションマネジメントを定着させる必要があるのです。

本記事では、離職の根本的な原因の見つけ方と、具体的なリテンションマネジメントの手法をご紹介します。

ハイパフォーマーが離職するデメリットを理解する

はじめに、あらためてハイパフォーマーの離職が組織に与える影響を整理してみましょう。

ハイパフォーマーの離職による職場への影響例

  • 他の社員の士気が下がる
  • 業務効率が下がる
  • 人脈や顧客の損失
  • ノウハウや専門技術の損失
  • 採用・育成コストが増える

このように、ハイパフォーマーの離職は組織の成長を阻害する要因にもなります。

コロナ渦で働く環境が大きく変わり、働き方やキャリアを見直す人が増えています。ハイパフォーマーであればあるほど、「新しいことにチャレンジしたい」とフットワークが軽いため、転職に迷いがありません。

転職の安易な引き止めは、さらなる不満を生むことも。

もちろん「退職したい」という方を無理に引き止めることはできませんが、会社の人事制度や仕組みの見直しで「この会社でもっと頑張ろう!」と活躍してくれたら、人事冥利につきますよね。

リテンションマネジメントとは、「人材が継続して活躍し、働き続けたいと感じる」仕組みアプローチのことです。リテンションマネジメントが機能しなければ、人材はどんどん流出していきます。採用後のリテンションマネジメントは、採用活動と同じように力を入れたい領域なのです。

リテンションマネジメントを始める前の準備、分析

では、どのようにしてリテンションマネジメントを導入すると良いのでしょうか。

まずは、離職にまつわる様々な現状の調査と分析から始めます。
観点は、次の3つです。それぞれを説明します。

  1. 離職状況の把握
  2. 離職の根本的な原因の特定
  3. ハイパフォーマーの定義

①離職状況の把握

これまでの離職理由を分析し、何が問題なのか?を的確に把握します。

チェックポイントの例

  • 採用と離職のバランス(年間で見る)
  • 離職理由
  • 定量的な分析(年代、勤続年数、ポジション、部署)

なお、離職理由は次のように分類ができます。

  • 積極的な離職(やりたいことがある、成長したいなど)
  • 回避的な離職(上司と合わない、業務内容が希望通りではないなど)
  • 心身的な事情による離職
  • 環境の変化による離職(結婚・育児、配偶者の転勤や介護など)

②離職の根本的な原因の特定

離職率を高めている根本的な原因を見つけます。

離職の原因には、さまざまなパターンがあります。人間関係や働く環境、報酬、昇進までの期間、昇給の規模、評価基準や方法、教育機会、サポート体制といった観点から、組織内の傾向や盲点を洗い出しましょう。そして、離職率が高くなる時期やポジションを特定し改善するための具体策を見いだしていきます。

例として、離職理由になりやすい原因とその背景を挙げました。

  • 組織になじめず疎外感を感じる、気軽に相談できる人がいない[従業員間の関係性が希薄]
  • やるべきことが不明確でやりにくい[指示、指導、目標設定があいまい]
  • 理不尽な扱いを受ける[評価基準の不備]
  • 採用時の情報との不一致[情報伝達やオンボーディングの不備]
  • 何かしらの不満がある[働く環境、福利厚生など体制に不備があるほか、社員と仕事のミスマッチなど]

離職の原因を放置したまま採用に力を入れても、穴の空いたバケツに水を入れているのと同じです。特定の原因が明らかになっている場合は、リテンションマネジメントの前に、ボトルネックの要因となっているチーム、対象者の改善から始めましょう。

③ハイパフォーマーの定義

リテンションマネジメントは、おもに個人に対して行います。費用も時間もかかりますから、ハイパフォーマーを定義し、組織や事業成長にとって欠かせない人材を優先的にサポートしていきましょう。

ハイパフォーマーは、企業によって定義が異なります。どのように定義していくか?その一例をご紹介します。

組織の人員構成は新陳代謝します。若手育成に目を向けて。

ハイパフォーマーの定義例

次の人材のうち、どの人材がリテンションマネジメントの対象となるでしょうか。

A:過去に組織を牽引してきた人材
B:現在、組織のけん引役となっている人材
C:数年後にけん引役となる次世代の中核人材
D:新卒・中途問わず、入社1年未満の人材
E:言われたことを淡々とこなす人材

最もアプローチしたいのは、組織の未来を担うCとDの人材です。

現在組織をリードしているBの人材も大切ですが、活躍しているハイパフォーマーは、つねに成長を追い求めています。「今の職場では成長が頭打ちだな」と感じたら、条件の良い別の場所へ活躍の機会を求めていきやすいと考えられます。ここで、急ごしらえの役職を用意したり、報酬のアップをしても、根本的な解決にはなりません。

長期にわたり存続できる強い組織になるため、フォーカスしたいのは次の世代です。次の世代をハイパフォーマーに育てていくことは、組織の未来にとって最も重要なポイントです。「組織の人員構成はつねに新陳代謝していくもの」と捉え、若手の育成に目を向けましょう。

負の影響を最小限におさえるリテンションマネジメントの具体策

ここまでの調査と分析から、離職状況とその原因、そしてリテンションマネジメントの対象となるハイパフォーマー人材の定義が見えてきたと思います。

続いては、具体的なリテンションマネジメントの手法を6つご紹介します。

(1)報酬体系の見直し

ハイパフォーマーであればあるほど、自分の働きに対する報酬には敏感です。ハイパフォーマーは、日々の活動の費用対効果を最高の状態にしておきたい欲求が高いからこそ、仕事のパフォーマンスも高いのです。ハイパフォーマーへの報酬は、当人との認識をあわせて、最適な状態を維持しましょう。

(2)成長の機会の提供

ハイパフォーマーは、自身の成長や能力の伸びしろを意識しています。「今の職場で、どのような仕事をしていきたいか」を言語化するサポートはつねに行ってください。そして、組織の成長と個人の成長の実現を検討していきましょう。

このとき、1on1は理想的な方法ですが、ハイパフォーマーと対話してビジョンを言語化し、成長を牽引するには、従来のビジネススキルとは異なるスキルが求められます。マネジメント層に丸投げせず、外部コーチなどのプロフェッショナルの活用もおすすめです。

(3)パーパスを明確に定義する

パーパスとは、企業や組織が存在する理由です。ハイパフォーマーは、「なんのために自分の時間を費やすべきか」をつねに考えています。意味や意義のあることに関わりたい欲求が高いため、組織のパーパスが明確に定義されていることは、現組織に留まるかどうかの判断基準になります。日頃から、「単なる利益追求でしかないな」と判断されるような指示の出しかたは改めましょう。そして、パーパスは掲げるだけではなく、実行し体現しているロールモデルが組織に存在するかが大切です。

成長できる場があることは、組織への帰属意識を高めます。

(4)人間関係の構築

リモートワークが推進されるようになった反面、組織内の人と人のつながりが希薄になっています。オンラインのミーティングでは、必要なことしか交わされず、相談事や悩みを話せる場が減ってしまったという声が多数聞こえています。上司や部下という縦方向だけではなく、同僚や別の部署、横や斜めの繋がりをいかに形成しているかも、リテンションマネジメントに重要な要素です。

(5)育児や介護など、家族も含めたサポート

改正育児・介護休業法が成立し、男性の育児休暇取得がいっそう進むと考えられます。また、現役世代の介護離職も無視できません。従来のように、配偶者に育児や介護を任せるという環境は成り立たないのです。家族のストレスフルな状況は、就業する本人の仕事の継続にも大きな影響をもたらしています。

育休に入る、または育休から復帰するタイミングで転職を検討する人が多くなりましたし、これからは介護と仕事が両立しやすい職場への転職もニーズが高まるでしょう。全体的な制度の設計に加えて、組織に留まってほしい優秀な人材にこそ、個別サポートを検討していくことをおすすめします。

(6)柔軟な働き方の推進

いまや、多くの人が場所・時間に捉われずに仕事ができることを体験しています。それを踏まえた多様なキャリアパスの提示は、リテンションマネジメントに不可欠です。古い基準や慣習を改め、新たな働き方を検討していきましょう。

ハイパフォーマーの帰属意識向上のため、戦略的なリテンションマネジメントに取り組もう

マッキンゼー&カンパニーの最近の調査では、従業員が退職を決めた、あるいは退職を検討している理由の上位2つは、自分の仕事が組織に評価されていないと感じたこと(54%)、そして職場に帰属意識が感じられなかったこと(51%)という結果が出ています。

また、アメリカの世論調査会社ギャラップ社が、2009年から2019年に行った1300万人のビジネスパーソンを対象とした「エンゲージメント」調査によると、帰属意識の高さには次の3つの関わりが重要です。

  1. 何を期待されているかが明確になっているか
  2. 良い仕事をしていると具体的な言葉で頻繁に承認されているか
  3. 定期的に、仕事の成長度合いについて言葉にする機会があるか

帰属意識や当事者意識を高めるには、個別対応のリテンションマネジメントによる上司や周囲との適切な関わりが必要です。ハイパフォーマーが離職する段階で慌てるのではなく、組織の戦略的に人材を育成し、関わっていく体制を構築していきましょう。

▼Starting Pointのリテンションマネジメント導入・支援例

[参考文献]

"6 Strategies to Boost Retention Through the Great Resignation," HBR.org, November 15, 2021.
"To Retain Employees, Give Them a Sense of Purpose and Community," HBR.org, October 11, 2021.
””Who Is Driving the Great Resignation?”HBR.org,September 15, 2021

執筆:鈴木敦子/編集:マチコマキ

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