「マネージャーが育たない」という悩み。人事部や上司なら、1度は感じたことがあるのではないでしょうか。
しかし、どんなにスキルの高いビジネスパーソンであっても、すぐに優秀なマネージャーになれるわけではありません。組織をリードするマネージャーへと成長するためには、新人マネージャーにアサインされたタイミングでのトレーニングやサポートが不可欠です。
本記事では、初めてマネジメント職に就いた新人マネージャーの育成方法をご紹介します。
目次
新人マネージャーが抱えやすい5つのストレスを知る
まずは、新人マネージャーの心理を理解することから始めましょう。
マネージャーとなって初めて部下を持つ経験は、一個人にとってもインパクトのあるイベントです。これまでのキャリアを認められ、会社からの期待を感じている一方で、初めてのことに不安を感じていると想像できます。
昇進や異動のような「役割や環境の“移行” “変化”」のときを、トランジションといいます。キャリア形成のプロセスにおいて成長の転機となる重要な時期ですが、同時に不安やストレスも感じやすくなります。
とくに新人マネージャーは、次の5つのストレスを強く感じる傾向にあります。
①任せられないジレンマ(育てることへの意識転換)
②孤独感
③板挟み
④役割の葛藤
⑤ロールモデルプレッシャー
それぞれのストレスを、具体的に解説していきます。
①任せられないジレンマ(育てることへの意識転換)
自分でやったほうが早いと思う仕事を、部下に任せなくてはならないというジレンマです。目標達成と育成のはざまに苦しむジレンマともいえます。また、仕事で自分自身の存在価値を得ていた人は、他者に仕事を任せることに自身の価値の喪失を感じます。優秀な成績を残していた人ほど陥りやすい心理現象です。
②孤独感
マネージャーになると、自らが責任者となります。メンバー時代と比べて、愚痴も言いづらいですよね。気軽に相談できる相手も減ってしまい、意思決定を行う心理的負荷が大きくなり、孤独を強く感じやすくなります。
③板挟み
新人マネージャーや中間管理職は、上位層の管理職や現場メンバーとの間に存在しています。関係の調整にプレッシャーを感じる人も少なくありません。
④役割の葛藤
たとえば、「本当はマーケティング部に異動したいのに、経験を買われて営業部のマネージャーになってしまった」。このように、自分のやりたいことと組織や既存環境が良しとする実態にズレがあると、行動の意味や意義に疑問が生じます。自分の果たすべき役割に葛藤が起こり、ストレスになります。
⑤ロールモデルプレッシャー
マネージャーとしての経験が浅いと、自分がマネージャーにふさわしいかどうか考えたり、前任者や理想とする対象と比較したりと、プレッシャーを感じがちです。また、つねに見られているという心理的負荷も生じています。
このように、新人マネージャーは想像以上のストレスに晒されています。
「困っているなら相談してくれたらいいのに……」と思いますよね。でも、仕事ができる人や責任感の強い人ほど、「助けてほしい」とは言いづらいものです。さらに、まわりから期待されてマネージャーになったとならば、なおさらでしょう。
その心理に気づかずに「この人ならできるだろう」「相談を受けていないし」と放任していると、強いメンタル不調を抱えたり、退職したりといった結果になりかねません。
事業成長は、組織を作る個人の変化や成長に依存している一面があります。人事部や上司は、積極的に新人マネージャーの変化や成長の転換期をサポートし、次世代のマネージャーを育成していきましょう。
マネージャー育成は、着任の前後と着任後の継続的な支援が重要
では、新人マネージャーの育成方法をご紹介します。
新人マネージャーの育成に大切なことは、マネージャーのアサイン前、マネージャー着任時、着任後という3つのフェーズで、適切なサポートをすることです。各フェーズで、次のような取り組みを行います。
①マネージャーアサイン前
- 組織、部門、チームそれぞれのビジョンを共有し、理解する
- 個人のマネージャー像(ゴールイメージ)を具体化させる
- 具体的なビジョンを前提に、行動のマイルストーンをおく
- 新しいポジションや環境に直面した際に起こる、心の動きをレクチャーする
- 事前に、当人の懸念点を言語化しておく
②マネージャー着任時
- ゴールイメージと現実のギャップを具体化する
- 課題の抽出と具体策を言語化する
- 心理的不安を取り除き、自己効力感を高める関わりをする
③マネージャー着任後
- ゴールとマイルストーンの更新
- ギャップの具体化
- 具体的な施策の言語化
- 心理的不安を取り除き、自己効力感を高める関わりをする
成長支援者側の人事部や上司は、新人マネージャーが感じているストレスや対応すべき課題を、ポジティブに対処できているかに注視します。当人の解釈やコミュニケーションのパターンを理解しておきましょう。
そして、ポジティブフィードバックとフィードフォワード(視点を将来に置き、今取り組むべき行動を促す関わり方)を活用し、自己効力感を高めていくように接することが大切です。
さらにマネージャー着任後も、継続的に関わっていくことが望ましいです。リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、新人マネージャーの5人に1人が「マネージャーに適応できていない」と回答しています。管理職の仕事を理解できる期間は、6か月から1年未満がもっとも多いという結果も出ています。
マネージャーの気持ちや意欲が下がってから対処するのではなく、継続的に状況を把握し、適切なコミュニケーションを取っていきましょう。
個人課題にあわせた育成で、マネージャーの力を引き出そう
マネージャーの育成を、制度として取り入れている企業もいます。たとえば、利害関係のない相手をアサインするメンター制度や、外部コーチの活用、継続的なマネジメント知識のレクチャーなどです。
また、人事の専門家や外部の研修、コンサルティングを活用し、マネージャー育成に力をいれる組織もありますが、個人の課題にあわせた着任前後のプロセスまで丁寧に見ていくことが理想です。
新人マネージャーがうまく適応し、能力を発揮できるかどうかは、マネージャー個人と組織の成長の分岐点にもなります。「スキルが高いプレイヤーだったからマネージャーになっても大丈夫」と過信せず、フォローアップしていきましょう。
コーチングモデルケース:営業目標の未達が続き、残業も増えている新人マネージャーAさん
終わりに、コーチングを用いた新人マネージャーの成長支援事例をご紹介します(これまで、当社が関わってきた人材育成案件を元にしたモデルケースです)。
新卒で入社し、営業で7年のキャリアを積んだAさん。この度、営業チームのマネージャーになりました。マネージャーに着任して半年が経ちましたが、チームのゴール未達が続いています。Aさんもプレイヤーとして客先に出ているため、残業時間が増えています。しだいに、Aさんが落ち込んでいる様子も見られるようになりました。
まずは、Aさんの上司に、Aさんに期待する役割や求める成果を確認します。その上で、Aさんに対し「マネージャーに着任してどうか?」をヒアリングします。あわせて、ねぎらいと現状の認識あわせをしていきます。
このケースでの現状とは、「①残業が増えている」「②落ち込んでいるように見える」などです。このことをAさんに伝え、Aさん自身はどう捉えているのか?お互いの認識あわせを行います。
Aさんには、感情面や仕事の負荷のレベル感も確認します。そして、現状の認識あわせをしたあとは、Aさんがマネージャーとして本来イメージしていたことと現状のギャップを洗い出し、課題を見つけます。
コーチングは、セッション(対話)を通して行います。セッションでは、Aさん自身が課題を解決できるようになる問いかけや関わりを繰り返していきます。
以下は、セッションのイメージです。
セッションからは、Aさんが自責に陥ってしまっている様子が伺えます。
自分がまわりからの期待通りにできているかどうかが気になり始めると、視野が狭くなり、Aさん本来のミッションであるチームのマネジメントが手薄になります。さらに「自分はできていない」という自責のセルフトークは、ものごとをマイナスに捉える悪循環を加速させてしまいます。
このとき「Aさんは困っているようだ」と表面的にとらえ、「Aさんはできる人だから大丈夫だよ」「Aさんの仕事をサポートする人を採用しようか」という声かけや提案は、本質的な解決になりません。
本質的な解決とは、目標達成に影響を与えているAさん自身のビリーフ(思い込み)や思考のクセを自覚して、物事に対する認識を捉え直し、行動できる状態になることです。
コーチングセッションを通して得られた視点や思考は、目の前の目標達成だけでなく、自ら中長期的に目標を設定し、行動する力につながりますよ。
▼マネージャー育成やリーダートレーニングなど、組織開発はStartingPointにお任せください。
監修:鈴木敦子 / 執筆:マチコマキ